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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第二巻拾壱回  やおいことば来歴(弐)
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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
ではゆるゆると綴らせて戴きましょうか。

〈耽美小説〉。
今日でこそこの言葉から男性同士が恋愛関係に
陥りそれを軸に展開する小説を想起する方は多
いのでしょうが、かつて〈耽美〉なる言葉を冠
されていたのは所謂幻想文学的な作品群でござ
いました。この方面の文章その他表現を指して
〈耽美〉と冠する例が皆無だった訳では無い様
ですが、あくまでも極一部の仲間内で囁かれる
用法だった様ですね。例えば『JUNE』周辺です
とか。初期の『小説JUNE』では投稿された小説
の一群に〈耽美小説〉と冠していた様ですが、
それはあくまでも〈耽美〉の本義に沿うた形の
用法であったかと思われます。
資料を紐解いた所に拠れば、其の状況が変わる
兆しは、ある出版社からもたらされたとの事で
す。
1991(平成3)年12月、勁文社より刊行された
『耽美小説SERIES』が、その兆しです。このシ
リーズこそが公的な〈耽美小説〉と言う呼称・
定義の先駆となったのです。新書版上製(ハー
ドカバー)・本文一段組のこのシリーズをご記
憶の方は今でも多いのでは無いでしょうか。後
年このシリーズに参加する事となった小沢淳さ
んは著作『青薔薇の街』の後書でこのシリーズ
が(現行の意味での)〈耽美小説〉と言う呼称
の先駆であった事に言及し、往時のときめきと
参加するに至った事への喜びを述べておられま
す。又翌92(平成4)年2月にはシリーズと書籍
上には明確には銘打たれて居りませんでしたが
白夜書房より『白夜耽美小説シリーズ』【註1】
が、同年12月には二見書房より〈耽美小説〉と
明確に冠した『Velvet Roman』シリーズが刊行
され始めました。これらも勁文社のシリーズ同
様新書版上製と言う版型、そして本文一段組と
言う体裁でした。
〈耽美小説〉と言う定義はここに定まり、また
今日のBLノベルズの判型の基本はこの時点で決
定した様なものです。
ただ、この名称が当の作家さん達に積極的自発
的に用いられたか、と言うと少し疑念は残りま
すが。あくまでも対外的な呼称としてと言う意
味合いが強かった様に見受けられます。

一方、オリジナル漫画作品の呼称はと言うと実
際の処定まったものは無かったと言う記憶が筆
者自身うっすらとありますし、現場に於いても
ホモ漫画だとかやおい或いはYAOI等好きな様に
呼び倣わされていた様です。或いは『JUNE』周
辺では耽美ですとか。『JUNE』のイラストコー
ナーに於いてはかつて〈ヒワイ画〉と言う総称
がございました。
1991(平成3)年12月に白夜書房から『イマージ
ュ』が創刊され、其のカバーに〈BOY'S LOVE CO
-MIC〉の文字が踊る様になったとは言うものの、
ボーイズラブと言う呼称が根付くまでには今暫
くの時間が必要となったのです。ほぼ同じ頃に
創刊された青磁ビブロスの『b-Boy』にもまだ
〈ボーイズラブ〉と言う呼称は登場しておりま
せんでしたし。恐らく、語としての初出はこの
時点の事であろうと思われます。

青磁ビブロス…1997(平成11)年に社名変更し
てBIBLOS…がボーイズラブと言う言葉を提唱し
た、と言う通説は少し違う様です。同社発行の
『MAGAZINE BE×BOY』のキャッチフレーズとし
てボーイズと言う語は用いられていた様ですが。
同社創業から社名変更に至るまで、そして社名
変更して暫くしてからも、BIBLOSの出版物に於
いては(広義の)〈やおい〉が用語として用い
られていた様ですね。
むしろ既存のボーイズラブと言う語にスポット
を当て、独自の路線を打ち出す為に活用する様
になったと言うのが実情では無いでしょうか。
流石に競合誌の名を冠した〈JUNE〉と言う語を
用いる訳には行かないでしょうし。
筆者が確認する限り、BIBLOSの出版物に於いて
ボーイズラブと言う語が用いられる様になるの
は筆者の確認の限りでは97年9月以降になってか
ら徐々に、と考えるのが妥当である様です。
では他の社では如何だったかと言うと、実はし
かと用いられております。
『小説イマージュCLUB』(白夜書房、創刊時は
『小説イマージュ』92.6.30〜/95年6月号よりコ
アマガジン)はあの『イマージュ』から分派し
た小説誌だけあって〈BOY'S LOVE NOVELS〉と冠
しておりますし、二見書房刊の『Charade』(94.
3.1〜)も〈ボーイズ・ラヴ・ノベルズ&コミッ
クス〉〈BOY'S LOVEfor GIRLS〉と創刊時から既
に謳っていた様子。時系列だけ見ると、一体何
が起こっているのかと言う感じです。
作家さん個人を見るとあさぎり夕さんが96年に
著作の後書で〈BOY'S LOVE〉と用いられている
のを確認しております。

何故先駆ではないのにBIBLOSが『ボーイズラブ』
の祖として称されるのか。
筆者が思いますに、雑誌の浸透率と言うものが
多少は関係しているのではないでしょうか?
BIBLOS発行の雑誌は凡そ他社に比べ多少低価格
であったが故に一般にも浸透し易かったのでは
ないか、と。其の為何かと情報媒体としては用
い易かったのではなかろうかと考えられます。
インターネット上のネタとして提示された言説
が物証無きままに浸透したと言う可能性もあり
ます【註2】。
資料に基づいて観るならば、〈耽美〉から〈ボ
ーイズラブ〉への転換に大きな役割を果たした
のは二見書房であると言う読み取りも出来ます
ね。この辺りは注目されている様で史料が欠落
している部分ではなかろうかと思われます。

〈耽美小説〉〈ボーイズラブ〉と来て、〈JUNE〉
と言う区分に触れる事を忘れる所でした。
簡略に申し上げますと、この表現は其の侭『J-
UNE』の読者内部から伝播したものであろう、
と推定されます。
83年の段階で既にそう言う匂いのするものに対
して〈JUNE〉と冠する兆しが観えております。
恐らくやおい市場の第一次成長期(80年代後半)
に伴い、内部からのラベルとして〈JUNE〉と言
う物言いが発達したのではあるまいか、と推測
されます。【註3】
恐らく〈やおい〉に対するアンチテーゼ的な物
言いとして拡がり始め、それがオリジなる作品
への区分呼称となっていったのでしょう。
この辺りも確かな傍証が見落とされている部分
であろうかと。

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて
戴きます。次号まで、御機嫌宜しゅう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
註1
『白夜耽美小説シリーズ』と言う明確な存在を
確認出来る資料が漸く見つかった。
☆
『薔薇の微笑』
白城るた/白夜書房/92.10.15初版
すたんだっぷ:編 ISBN 4-89367-287-8
☆
こちらの後書及び帯に拠ってとりあえず版元サ
イドはこの判型で出版された一群をシリーズと
言う認識で捉えていたらしいと確認。
シリーズと銘打たれていながらも共通している
のはカバーを取り去った装丁のみと言う判別し
難い例である。

註2
筆者が確認する限りでは2001年初頭にBIBLOS提
唱説が発言されている。が、提唱の場になった
媒体等は明記されて居ない模様。

註3
『小説JUNE』1988年2月号/通巻34号(サン出版
/88.12.1発行)及び『小説JUNE』連載「JUNE文
学ガイド」切り抜き(90年代中盤のもの多数)
を参照した。
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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第二巻拾壱回 2005.4.20発行
(2005.3.19脱稿・2005.4.15加筆)

文責:葡萄瓜XQO
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