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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第二巻弐拾四回  小説「TV-Dinner」
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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
月末の小説配信回。お楽しみ戴ければ幸いです。
○●○

    TV-Dinner
             XQO

 又、トリップしてる。
 画面から視線を外さず、其れでいて箸を休め
ていない彼を見て、僕は何時もの様に胸の中で
だけ溜息を吐く。
 多分彼にとっては不要な情報なんだろうな。
食卓の上の筋蒟蒻の調理に下拵えも含めて都合
半日僕が費やした、なんて事は。
 こういう時にさっとおかずを引き揚げてTVデ
ィナーか栄養補助食でも叩きつけてやれれば楽
なんだろうとは判ってるけど。ま、これも惚れ
た弱みって奴で。恐らく番組が番組なら僕も一
緒にトリップしてた可能性が高いからあまり強
い事は言えない。
 肉の類を食いながら人が食われていくと言う
ホラーを観て楽しめるという感覚は、残念なが
ら僕には無い。ホラー視聴はなるべく食後二時
間後にと言う長年の習慣があるしね。
 
 男同士で恋愛して、同居に至る。その場合片
方が完全に家庭に入ると言う可能性はどちらか
と言えば少ないと思う。収入面の問題じゃなく
て他の理由でね。だから家事に就いては一応分
担と言う形式を採ろうと話し合ってはいた。
 で、同居開始から四年目の現在食事の準備は
僕、後片付けは彼と言う事で落ち着いている。
その方が効率的だから。
 でも、其れも見直した方が良いのかな、とこ
ういう時には思う。僕は彼と一緒に食べる食事
を作っているのであって、栄養補給食品を調理
している訳じゃないから。
 そして更に言えば、その料理と一緒に楽しむ
べきは他愛も無い毎日更新される会話であって、
決して予め放映が予定されている映画じゃない。
話したい事は無くても、聞きたい事がある日だ
ってあるんだから。
 『あと一時間、か』
 横目で番組表を確認して、僕は静かに手を合
わせて食卓を離れ、読みかけの本に視線を落と
す。無言で気持ちを燻らせるよりも、多分その
方が幾らか建設的だろうから。

 自分が物事に集中するとトリップし易い性質
だから彼が映画に夢中になるのも判る。同居前
は何回映画館の梯子に付き合った事か。そして、
一緒に居ながら何回置き去りの気分を味合わさ
れたか。
 それでも縁を切ろうと思わないのは多分彼と
居る事で満たされているからだ。二人が同じ性
に属している、と言う点も大いに関係している。
ああ、だから余計に離れたくないのか。丁度良
い相性を探し当てるには、僕達の様な関係は世
間一般の場合よりも狭き門を潜らねばならない
から。
 恋愛関係と言うよりは一種の利害関係と言う
べきかも知れない。そう言う達観が嫌だから会
話を重ねてこの関係が恋愛である様に進化させ
たくなる。でも、僕だけが空回りしてるんなら、
考え直すべきかも知れない。

 床に投げ出した爪先が何か固いものにあたる。
平たい…皿?それもやや暖めてある様な。
 「冷めると不味いぞ」
 ぶっきらぼうな声に改めて目を遣ると、それ
は大き目にカットされたアップルパイを乗せた
皿だった。アップルパイからはうっすらと湯気。
そう言えば彼が何か買って帰って来ていたなと
思い出す。
 「……いいの?」
 「何が?」
 「映画。ラスト間近でしょ」
 「ああ。パス。詰まらんから」
 僕と並んで壁に凭れて座り、脚を軽く乗せて
くる。この時間に彼の体温を感じるなんて久々
だ。
 「アレは、二人で観ないと意味ないからな」
 「なんで?」
 軽い僕の問いに彼の目が思い切り見開かれ、
そして肩が落ちる。
 「初デートから五年目おめでとう、って遣る
つもりだったんだけどな」
 彼の苦笑を見て思わず赤面する。僕がその日
を忘れていた事と、発覚した彼のロマンチスト
振りに触発されて。
 「このアップルパイも?」
 「デコレーションケーキは、流石にな」
 倦怠期が来たのかと思ってたら、それも僕の
一人相撲だったって訳か。全く。こう言う事を
されちゃ許さざるを得ないでしょ。
 中々笑い止まない僕に業を煮やしたのか、無
言で引き寄せられて胸板に顔を押し付けられる。
笑い止んであげないよ、そんな事されても。
 そうされながら僕は、彼をこれから如何言う
風にこちらに引き寄せ易く躾けるかを考えてい
た。もう暫く続く恋なら、建設的にしたいしね。
                  (了)

○●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて
戴きます。次号まで、御機嫌宜しゅう。
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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第二巻弐拾四回 2005.8.31発行

文責:葡萄瓜XQO
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