ショタやおい雑話　第四巻八回　小説「多分」

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仇花の記憶～ショタやおい雑話～
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第四巻八回　　小説「多分」
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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回。お楽しみ戴ければ幸いです。

○●○

　　　　　　　　多分
　　　　　　　　　　　　　　XQO

　時間が空くとふと考えてしまう。何故こう言
う顛末になってしまったんだろう、と。
　告られたのが体の関係が出来た後だとか言う
順番は結構どうでも良いんだ。気持ち良い事は
好きだから。それが同性相手だったとしても多
分問題ない。
　ただ、何で俺と目の前のこの人なんだろうと
思ってしまうだけ。赤い糸とかそう言う言葉で
片付けられたんなら凄く楽なんだけど、納得出
来てないから。
　そうやって色々考えていながらも二人で居る
事の証って実質上は肌を重ねている事だけ。一
緒に暮らしては居るものの、快楽だけの瞬間は
過ぎればどこか褪めるもので。ペアルックとか
お揃いの物で二人の関係を明示すればまだ何か
違うんだろうけど、そういう事なんて全然考え
て居なかった。なんとなれば既成のそれらはあ
くまで男女用のそれだったから。
　でも、説明し難いけどそれなりの絆があるん
なら何かの証が欲しい、とふと考えてしまう。
俺の独り善がりな思いかも知れないけど。

　つ、と相方からクリアファイルを渡される。
　「ん、なに？」
　「こう言うの、どう」
　改めてじっくりと見ると印鑑の通販ページだ
った。それも良くある象牙や銘木の奴ではなく、
個性を感じさせる材によるもの。
　「まあ、水晶は避けるとして、ね」
　「駄目なん？」
　「あの透明さが何となく苦手」
　「ふぅん」
　「だから同じ理由でガラスも却下。樹脂なら
まだ数歩譲れるけど」
　「樹脂っていうのもなんだかじゃね？」
　「それを言ったら琥珀も外れるって」
　「それもそーか」
　と、ここまで話を流してきてふと気付く。俺、
相方に証がどうこうって話、してないぞ？
　「あのさ」
　「あ、今更のツッコミは無し」
　そして静かな微笑。
　「別々の人間でも、思いを共有できるから二
人でいるんだよ」
　「ん、そか」
　「指輪とかアクセサリーって柄でもないしね、
僕等」
　「ネクタイピンやカフスは？」
　「二人の立場を考えようね。記念日だけにつ
けても意味無いと思わない？」
　「時計は？」
　「特別な銘柄か刻印でもなきゃナンセンス！
同じ理由でライターも却下！」
　「じゃ、何で印鑑ならいいのよ？」
　「僕の口からそれを言わせる？」
　静かだけど物凄く底意地悪い微笑が俺の出方
を窺う。………形式上の事だとは言え、俺、こ
の人の養子になったのは失敗だったかも知れな
い。
　「せんせぇ…」
　「泣き真似の通用する歳でもないよね？」
　俺、よくぐれなかったよな。こう言う調子で
十五年間おちょくられ続けて。ま、この人が初
恋の相手だったから今日まで来てるんだけどさ。
　「薄い紙切れ一枚を更に重くしてどうするん
だ、と言う気もしないじゃないけどね」
　「軽い方が良いの？」
　「負担になっちゃうんならね。でも、二人で
持つんなら多分重みも半分以下だから」
　「二人で？」
　「そう、二人で。もう力も対等な筈」
　「そう思ってくれる？」
　「思う。先日の寝台上の感触は思い過ごしで
はないと教えてくれたし」
　不意に右手をとられて、中指にキスをされる。
普通のキスよりも熱く感じるのは多分気のせい
じゃない。
　「印鑑、さ」
　「希望、固まった？」
　「ラピスラズリって、どう？」
　「二人とも？」
　「うん、二人とも」
　「実印と銀行印、認印は…、まあ、良いかな
？」
　「認印はチタンにブルーサファイアをライン
にして」
　「張り込むけど。良いの？」
　「給料三か月分には多分及ばないけど」
　「ばぁか」
　今度は、しっかりと目の前で中指をしゃぶら
れる。
　「二重の意味で記念品？」
　「うん。生まれて来てくれて有難う」
　「こちらこそ。これからもよろしく」
　光る筈の無いプリントアウトの紙が光った、
気がした。　　　　　　　　　　　　　（了）

○●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせ
て戴きます。
では次号配信まで、御機嫌宜しゅう。
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仇花の記憶～ショタやおい雑話～
第四巻八回　2007.4.25発行

文責：葡萄瓜XQO
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