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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第四巻拾八回  小説「残暑残臭」
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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回。お楽しみ戴ければ幸いです。

○●○

    残暑残臭    
               XQO

 残暑が厳しく長引いている、というのも、余
り良い気分ではない。殊に体格による条件がつ
いて回るようなら尚更だ。布団乾燥機を使わな
くてはいけない…とまで行かないのが不幸中の
幸いなのだろうけど。

 残暑が厳しいとは言え天候にはかなり恵まれ
ているので、毎朝一番の仕事は雨戸から網戸ま
で開け放って家の空気を入れ替える事と言うの
がここ最近の定番となっている。野郎二人それ
なりに暮らしていれば要らぬお湿りも溜まるし
要らぬ臭いも澱んでくる。エアコンの性能が年
々良くなっているとは言え、この手の臭いをか
らりと変換する機能は流石に開発されていない
様だし。
 もっともこの臭いと言う奴はどちらかといえ
ば物理的に発生するものじゃないんだろう。概
ね精神的なものから発生するんだろうと肌では
感じているが、じゃあどうすれば改善されるか
と言うのはケースバイケースなのだからなんと
も言えない。
 では、いっそ秋の気配を求めずに夏の名残に
しがみつけば何とかなるのかと言えばそうでも
ない。残暑盛りの頃なら兎に角としても、彼岸
の頃になってハイビスカスを愛でると言うのも、
なんだかね。流石に汗だくになった後で眺める
とあの緋色が暑苦しさを誘発してうんざりして
しまう。嫌いな色ではないんだけど。
 『それは相当もの知らずな言い方でショ』
 とは扶桑花を後生花と言い慣わす同居人の弁。
そう言われると確かにな、と自分の発想のステ
レオタイプさに少し腹立ち。

 臭いが澱んでくるとは言ったけれど、実を言
うとこの臭い、嫌いではない。むしろ好きだ。
これは多分嗜好の性と言う奴なんだろう。
 余りにきつすぎるものには閉口するけれども、
元から持ち合わせているものが少し熟れてしま
ったようなものであれば好ましく思う。この臭
いで自分の立ち居地を確認している様なものな
のかも知れない。元々臭いに対する嗜好もあっ
たんだろうな、と思う。そうで無ければ同居人
の抜け殻の臭いを一々吸い込んでから洗濯に出
すと言う自分の行動について明確に説明できな
い。
 「ハイハイ、そこの人日常に帰っていらっし
ゃい」
 「……ァえ?」
 と、正気に返れば十五センチの空間の向こう
に同居人の苦笑い。そして僕の手元には汗をし
っかり吸った同居人のノースリーブシャツ。つ
まりこれは僕がしっかり彼の臭いで異世界に旅
立っていたって事ですか?マントル層まで潜り
たい程の醜態だ。
 「何でアナタは俺の日常の臭いでそこまでト
リップするかね?」
 「知らないよ、んな事は」
 「どうせトリップするならもそっと特殊な臭
いでトリップして欲しいもんだわ」
 「……醒める?」
 「いや、チャレンジ精神に火がつくからある
意味有り難くはあるけど」
 って、朝からどういう会話なんだか。明け透
け過ぎる会話だなと思う。人様の前では出来…
…てしまってるな。二人の関係を熟知してる人
(双方の両親含む)の前でもさりげなく流して
しまってるよ…今更ながらに気付いたけど。
 「それにマア馴染んでいると言う事で馴れ合
いではないからね。それなりの緊張感は継続し
ている訳だわな」
 「それはいえてる。そりゃ、この臭いでもそ
れなりには…なんだけどね」
 言葉を少し切って、それなりの目配せをして
みる。ただし触れない。触れないで焦らす。
 「純情だった学生さんが、随分と練れて来た
もんだ」
 喉の奥の笑いと共に三音程低くなる声、そし
て、触れるか触れないかのタッチで逆撫でされ
る背中。どちらも僕が好きな同居人の仕草だ。
 「普段の臭いでここまで変わってしまうんだ
って事は、もう判っておいて欲しいな」
 背中の逆撫での所為で少し上がった体温を持
て余しながら、出来るだけ理性的に囁き返して
みる。
 「判っているつもりだったけどね、とっくに」
 更に囁き返されて、瞼にキス。このまま雪崩
れ込むんなら、身を任せてしまおうかと思って
しまう。
 「とりあえずは日常復帰。続きは十五時間後
にね」
 しれっとかわされてしまった…これってきっ
と耐久プレイなんだろうな。仕方ない。やって
みるか。      
                   (了)

○●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて
戴きます。

ここで一つ自己喧伝を。
『ショタコンのゆりかご』サイト化致しました。
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ご愛顧戴けましたら幸いでございます。

では次号配信まで、御機嫌宜しゅう。
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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第四巻拾八回 2007.9.25発行

文責:葡萄瓜XQO
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