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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第五巻弐回  五百字小説集
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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回。お楽しみ戴ければ幸いです。
今回は前回の予告通り五百字小説の詰め合わせ
でお届けします。タイトル表記込で五百字の空
間を用いております。
そして、一篇増えて四篇となりました。

○●○

  差し向かい
                XQO

 冬時分の野菜特売で、白菜一球百円と言うの
は実に有り難い。別にキャベツ一球でも差し支
えはないのだけど、経済効率を考えるとどうに
も白菜に軍配が上がってしまう。上手くすれば
二日間の食費が白菜一球によって軽減されるの
だ。これは実に魅力的な話だ。別に食を削りた
い訳じゃないけど。
  もっともこれは一人で飯を食うと限った時の
話。最近では足繁くと言う程でもないが通って
くる奴がいるのでエンゲル係数は若干上がって
いる。全く、野郎一人住まいに押しかけて面付
き合せて飯喰って時に一晩不埒狼藉を働いて帰
るのは学生なのに如何言う了見だ?家に居る事
が出来る間は精々甘えとけっての。
  『家って、ここが俺んちでしょ?』
  何寝惚けた事言ってやがる。この…なんだ…
スカタンが。
  『ここが一番寛げるんだから俺んちなの。俺
がそう決めた』
  時には下着を貸してしまう仲だもんな。否定
したって、しゃあねぇか。  (了)

○●○

  鬼は逃げぬか
               XQO 
                              
 好き嫌いの多い同居人を持つと言うのは不幸
だが幸せだ。料理は料理愛情は愛情と頑なに区
分する相手なら尚更の事。
  心身ともに距離感が近ければ愛情の熱さを保
てると思い込んでいた頃は相当に衝突もしたが、
割に心地良い距離感が保てる様になった今では
それなりに調整をしながら日々を愉しむ事が出
来る様になっている。
  「これ、一寸喰ってみん?」
  珍しく同居人の方から小鉢を差し出され…一
寸待て。
  「俺の好き嫌いを知っててやってる?」
  「四の五の言わんとまず喰ってみ?」
  納豆嫌いの目の前に納豆の小鉢を差し出すな
んざ拷問じゃねぇかよこの野郎長い付き合いだ
ってのに終わらせるつもりかこのアホンダラと
思いはするが何の考えも無しの事ではあるまい
とも思い箸を付けてみる。
  「あ、旨い」
  「これなら喰えるか。なら、良し」
  見事に一手返されたか。じゃあ、こちらも気
合入れて何か鰯で一品を、と。 (了)

○●○

  身互い懐炉
                XQO
                              
  彼氏君は餡かけ饂飩におろし生姜を小指第一
関節程の量まで雑ぜ入れて盛大に啜っている。
ほんの一筋の水鼻に対して全く大袈裟な。まあ、
生姜には発汗作用もあるのでこの頃少し出て来
た腹部脂肪の為にも良いのかも知れない。甘味
が苦手だと称して生姜湯を飲まない人だから良
い手段ではあると思う。
  「甘酒にもそれ程生姜入れて飲んだら?あれ
は大丈夫なんでしょ?」
  いっそ濁り酒でも良いけど、とお腹の中で言
って口には出さない。そしたら返ってきた答え
が奮っていた。
  「甘いから甘酒だろうがよ。生姜の添え物に
してどうするよ」
  それもそうか。結構な呑み助でもあるから酒
と名のつくものにはそれなりに礼をはらおうと
言う事なのだろう。
  それならば、と仕込んであった一夜酒を温め
て対の湯呑に注いで出す。差し向かいもどうか
と思い、炬燵の隅を挟んで斜交いに。
  炬燵の中で二人の指がじわりと絡んでいる。
それだけでも腹一杯な、冬の夜長。 (了)

○●○

  湯浴み涼み
               XQO 
                              
 気がつくと膝枕をされ団扇で緩々扇がれてい
た。
  「其の侭其の侭。喉は渇いてない?」
 「少し」
  ゆっくりと頭を二つ折りの座布団の上に移動
させられ、口移しに冷え加減の茶を与えられる。
さて、どういう次第でこうなったものか。思案
するか聞くが早いか。
  「まだもう少し休もうよ」
  「それで良いの?」
  「夜は長いよ。それに」
  「それに?」
  「こういう夜なら、一寸でも長い方が」
  「それも、そうか」
  言葉に甘えまた緩々と膝枕。団扇も風を送る
と言うよりは調子をとる様に揺れ動いている。
よく見れば見慣れぬ柄のものだ。
  「これ、君の分もあるから」
  「まめだな」
  「湯上りだからこそ涼みたくなるじゃない。
これは、想定外だけど」
  照れたのか、団扇の調子が少し狂った。(了)

○●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて
戴きます。
では次号配信まで、御機嫌宜しゅう。
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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第五巻弐回 2008.1.25発行

文責:葡萄瓜XQO
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