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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第五巻六回  小説「爽風涼風」
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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回。お楽しみ戴ければ幸いです。

○●○

  爽風涼風
              XQO

 横向きになって腹に掌を当ててクルンと丸ま
って寝ていると少し気分が収まってきた。安息
手段と言うよりは不貞寝に近いかな。我ながら
一寸情けない。開き直って大の字になって寝る
というのも有りなんだろうけど、大の字になり
たくてもなれないんだな。背伸びをしたらした
で胃がチクチク痛んで安息出来ない。胎児の様
に丸まってる方が相当ましってなもんだ。
 横でおろおろしてる馬鹿者の事なんざ今は知
るもんか。精々狼狽えているが良いんだ。まあ、
自分に非があるという一点を認めた事に関して
は許してやっても良い。そこに至る過程で僕の
胃に無用なダメージを与え倒した事に就いては
許してやるつもりは欠片も無いけど。
 大体僕等の関係を公言せずにあれこれ回避す
るにも限界と言うものはある訳で。好意半分の
贈答品の遣り取りが発生してもそれはそれで仕
方ないと思う。それを上手に回避しようと思う
んならきっぱり断るか社交辞令にまで還元する
かのどっちかだ。幸い僕の関係者と言うのはそ
う言う点で変に聡い人が多い様で、たまに新来
者の見誤りがあるとは言え最近の贈答は凡そ完
全な社交辞令に還元されている。時折はそこに
情報交換も入って見聞が広がったりもするし。
 と、言う状況にも拘らず、だ。
 何で目の前のこの大馬鹿野郎のコンコンチキ
は自分勝手な思い込みで邪推して被害妄想に陥
ってそれを僕にぶつけて来るかね。お前さんの
鬱憤をぶつけられた僕にダメージが無いとでも
本気で思ってますか如何なんですか大概にせえ
よ。男女の仲に時折ある罠の様に色恋仲の相手
に血縁殊に肉親の如き包容力を無条件に求めな
さんなっての。あんたの親に今更僕がなれる筈
なんざないでしょうが。物理的にも精神的にも。
同じ様な年数生きてる人間にそう言うものを求
めると言う前提が大いに間違ってるんだよな。
 百歩譲って不器用故に適切な甘え方を学習す
る事が出来なかったと言う前提があるにしても、
だ。二百歩僕の領域にまで踏み込んで地団太を
踏んで良いと思い込んでた事が許せない。折角
だからもう少し狼狽えていて貰おう。譲歩した
い気持ちが全くない訳じゃないんだけど、肉体
の状況を考えると、キスしたら多分吐く。それ
を受け止めてくれる甲斐性がある相手だとは到
底思えないし。

 丸まってしまった志郎の背中を目の当たりに
して、今更ながらに凄く嫌な気持ちを噛み締め
ていた。
 甘え過ぎていた心当たりは…確かに結構ある。
黙って聞いてくれるもんだからついついこうさ
…自分の中で言葉を整理するのが面倒臭かった
って部分もあったし。
 ……ホント、怖かった。
 いつも通り捲くし立てようと思ったら無言の
まま耳栓装着されて、そして一息鼻で笑われて
背中向けて丸まって寝られたんだもん。生気の
無い視線で刺されるわ眉間に皺寄せて脂汗流さ
れるわ…これだったら怒鳴り返されたりする方
が余程まし。喜怒哀楽の表現って、ある意味感
情の緩和剤でもあるんだなって思った。
 さて、どうしよう。
 俺が志郎の為に出来る事って、あるんだろう
か。だらしない話だけど全く思いつかない。
 ホントだらしない話、俺は志郎がどう言うも
のが好きでどういう事をすれば喜ぶのかって事
を、全く知らない。知っていると思い込んで居
たんだと思う。そう思い返して改めて志郎が総
てに於いて俺の好みを優先して取り仕切ってく
れてたんだな、と知る。こんな状態って、俺も
しかして恋人失格ですか?
 だからこそ今志郎に何かしてあげたいと切望
するけど…何をどうしたら良いんだろう。

 いつの間にか本気で寝入ってしまっていたら
しい。ああいう寝入りだったのに寝起きの気分
は妙に爽やかだ。何故かと思って五感を研ぎ澄
ませてみると鼻腔を擽る芳しい薫りの存在に気
付いた。薫りの出所は…梧郎の手元にあった。
 「ああ、起きた?」
 「うん。それって…」
 「本当は来週渡すつもりだったんだけど。柄
にも無く」
 何でこいつはこっちの甘やかし本能を天然で
擽るかな。ものに釣られる訳じゃないが、免じ
て許さざるを得なくなるじゃないか。
 でも、照れ臭いんで視線で促してもう一扇ぎ
させる事にする。白檀薫る風で、さっきまでの
もやもやはゆっくり鎮められている様だ。先の
事は、落ち着いて考えよう。
               (了)

○●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて
戴きます。
では次号配信まで、御機嫌宜しゅう。
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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第五巻六回 2008.3.25発行

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