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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第五巻弐拾回  小説「男子身中乙女」
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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回。お楽しみ戴ければ幸いです。

○●○

   男子身中乙女
              XQO

 衣更えをするなら、ついでの時に遣ってはい
けない。衣更えを最優先事項に設定して事を起
こさないと兎角手が止まりがちになるからだ。
今の僕の様に。
 夏から秋への衣更えをしている筈が何で夏の
名残の団扇に頬擦りする様な状況になってるん
だか。幾ら彼と一緒に取ったプリクラシールが
貼ってあるからとは言え、何処を如何視ても男
にしか見えない奴が遣る仕草ではないと思う。
少なくとも僕自身鏡に映った自分の仕草で悶死
しそうになった。これがせめて浴衣か、少し下
の方に行って下着だったらまだましと言えば言
える。男の仕草としてはまだ自然だろうからだ。
 マア、立ち位置故に乙女に親近感を覚える感
覚があるというのは認識する。せざるを得ない。
乙女達から拒絶されるのは重々承知だし自分で
もこうなってみてからやっと信じられた訳で。
 ん。男を好きになる感覚ってのにも男女差が
あると信じてたから。男が男を好きになるんだ
ったらもっと雄々しく好きになるんじゃないか
と思ってた訳ですよ。相手がどう在ろうと自分
の気持ちさえしっかり地に足ついてりゃ揺らぐ
事は一切ないんだとか、一寸やそっとの事程度
笑い飛ばして今やこれからを大事に出来るんだ、
ってね。
 でも、自分が当事者になってみたらどうです
かこの落差。些細な嫉妬の連続で自分自身が焼
死寸前まで行っちゃったり、待つにしたって一
人悶々と心身ともに揉みしだいていたりする。
全く未知の自分自身がこんなに女々しい…いや、
むしろ乙女の方がこう言う面では余程逞しいと
思えてしまう様な…と気付いて戸惑う日々な訳
ですよ。
 もう少し可愛げのある外見だったらね、と鏡
を視る度に溜息をつく自分自身なんて本当に知
らなんだ。乙女男子も外見じゃないよなんて慰
めは要りませんよ。可愛いというのは可視的だ
からこそ効果的なんでありましてね。泣いて済
むなら泣いてるぞ、ホントに。

 ま、外見云々を横に置いて陶酔出来る様な自
分だったら強くなれたのかと問われれば即答も
出来かねる訳で。むしろ陶酔したらしたで相当
周囲に塩辛い思いをさせてるんじゃないかと思
ってしまう。こう言う時自分の根っこが独りを
好む性質で良かったなと安堵しなくは無い。一
人悶々としている分にはとりあえず周りは平和
だ。必要以上の浮き沈みは肝心な時の体力を奪
うので出来れば避けたい。日和見と言われよう
が、まず自分がそれなりにハッピーで無いと周
りと調和出来ない。自分のメンテナンスは手前
の仕事だ。その程度出来なくて何が乙女男子ぞ
と思う。
 社会的には彼と同じ側に立つ様に生まれてき
たのだから対等で居たい、と言う意地もある。
彼は情人であると同時に競争相手の様な存在で
もある。その友人としても恥ずかしくない人間
で居たいな、と言う気持ちもあるんだな。そう
じゃなきゃ対等じゃないだろうし。
 こう言った関係の中で自己主張をしたいと言
う気持ちがある以上、一方的に依存するのはア
ンフェアだと思う。彼の人生は基本的に彼の所
有物であって僕の都合で如何こう左右出来るも
のでは無い。僕自身も…幾ら自分が彼のモノだ
と言う意識があるにしても…束縛されるのは嫌
だし。
 
 「おーい」
 んだよ、るっさいな。考え事してるんだから。
 「とりあえず白昼夢にしても夢は布団の中で
見ような?」
 だから白昼夢じゃないだろうが。
 「とりあえず窓の外見て御覧?」
 ハイハイ見りゃいいんでしょ見れば…って…
…今何時になってるんだっけ。
 半日かけて抽斗の半分も進んでいない衣更え
……何言われても反撃できないね、こりゃ。
 「スーパーに旨そうな新作弁当が出てたから
買って来た。食おうか」
 さり気なく話題を変えて台所に立ってゆく彼。
色々と目を逸らしてくれたのは有り難いんだけ
どさり気ない分だけこっちの恥ずかしさは反比
例する訳で…うん、まあ、相方がこの人で良か
った。
 「あ、箸はこれ使ってね」
 と差し出されたのは…あの、これって世間で
言うペアルックの変則バージョンじゃないです
か?寸法が同じで色違いの柄揃えって。
 で、どう言葉を紡ごうかと惑っている僕に更
に追い打ち。
 「今度のデート、手を繋いでみる?」
 ………乙女彼氏と言う分野が開拓されてしま
ったんだろうか。嬉しいけど。
               (了)

○●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて
戴きます。
では次号配信まで、御機嫌宜しゅう。
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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第五巻弐拾回 2008.10.25発行

文責:葡萄瓜XQO
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