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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第七巻弐拾回  小説「ゆらり提灯」
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**今号より横幅を若干拡げて配信しております**

御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回、お楽しみ戴ければ幸いです。

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  ゆらり提灯
                                    XQO

 定席であるカウンターの端に陣取った優男の前に
何言うともなく小鉢を置いてやる。綻びかけた口許
が一転微かに引き攣る様子をみて北叟笑むなんざ嫌
な爺だと自嘲しつつ軽い詫びついでに白ワインも出
してやる。折角のお勤めなんだからしけた面すんじ
ゃねェやいコンべラバァ!と気持ちの隅でどやしつ
つ。
 ま、お釈迦さんくれぇだろう。この優男が実は南
瓜提灯かぶった火の玉で、てのは。文殊様なら仲の
事までご承知かも知れねえが。
 こいつの正体を知った上で坊ちゃん南瓜のグラタ
ンなんぞ突出に出すなって話だが、今夜一晩お勤め
のある身にちったぁ栄養をつけさせねぇと途中でぶ
っ倒れかねねぇしな。こいつァ年の割には線がどう
も細くていけねぇ。そこらに飾っとくにはそれで良
いにしてもそれ以外となると不都合もあるやね。
 まあ、南瓜かぶりの火の玉と言っても栄養を自分
の笠からとる訳にはいかんだろうしな。俺ンとこへ
食いに来るんだからそこらも判った上の事だと思っ
ておくぞ?
 と、おつむン中で能書薀蓄をたれてると上等な笑
いを見せやがる訳だこいつは。全く、何処の誰に似
たもんやらこの顔は。この顔がたまにうちの布団の
中に転がってるってのは乙なもんだ。頭だけで転が
られてるとちょいと肝が冷えるがな。

 全くこの小父さんには困ったものだ。とは言え目
の前の品が全く食べられないと言う訳では無論無い。
本当にそうだったら僕は給食や仕出弁当を一切食べ
る事は出来なかったし。第一日本の南瓜なら僕達に
とっては共食いと言う感覚じゃないって。そう言う
感覚で言うならカラーピーマンやパプリカの方が余
程やばい。丸ごと出てくる機会がないから余計に色
々想像して背筋がむずむずする。しかも季節限定品
じゃないから始末が悪い。
 それはさておいて。
 ホント、この人はね…さりげない振りして白ワイ
ンなんて出して僕を甘やかすんだから始末におえな
い。ねぇ?父さんから言われてたんじゃなかったの?
僕を甘やかすなって。
 こう言う風に甘やかされている瞬間僕はとても不
安になる。だってこの人は最初から僕のものだった
訳じゃない。元々は父さんのものだった訳だから。
お互いの足りなさを補う為になし崩しにそうなって
しまったけど、少なくとも僕が学生服を着ている間
は保護者扶養者の関係だった。その時の甘やかし方
とちっとも変わらない様式なのだもの。
 子供扱いされる事に不満があるんじゃなくて、こ
の関係が保護者としての責務の内だと思われてるか
もと考えてしまうのが嫌なんだな。
 不安材料はもう一つ。それは父さんの写真から起
こされたレリーフの横に毎年飾られる立派な栗南瓜。
 その前で普段とは少し違う柔らかい微笑を見せる
小父さんをみてると、嫌な感情だけど父さんを嫌い
になりそうになる。家族としてはあるまじき感情だ
と充分承知してるんだけど。

 「ここらが潮時なんだろうかね?え?」
 すっくり育ってしまったジュニアを送り出し、暖
簾を仕舞って懐中からカメオを取り出して話しかけ
る。ジュニアは多分このカメオの存在は知らない筈
だ。嫌な爺だよ。干支一回りはとっくに経ってんの
にな。そこまで離れ難いってのかよと思う。
 こいつとジュニアは漢としちゃ全くの別モンだっ
てのはとっくに承知してるんだ。だから俺はきっち
り選ばなきゃいかん。こいつとの思い出を残りの道
連れにするか、ジュニアときちんと歩いてやるか。
 こう言うときに普通の爺なら多分取る道はスパッ
と決まってんだろうな。だが、俺は生憎そう言う風
な爺じゃない。そして相手が相手だ。それでもなお
迷っているのはジュニアが良い漢過ぎるからなんだ
な。
 そして、フウと溜息を吐いた所で後ろから回って
きた手で目隠しされる。誰でぇなんざ訊いてはやら
ん。それこそ野暮だ。
 「全くでかい手だ」
 「父さんより?」
 「ジャックのは太い手だったな。痩せさせたけど
よ」
 そのまま、ポンポンと軽くはたいてやる。
 「帰って来るか?ジャックの部屋に」
 「……良いの?」
 「ジャックの居場所は、神棚だけでもう良かろう
さ」
 と、良い台詞で決めたつもりなのになんで南瓜面
で浮いていやがんだこの唐変木!そう言う所までし
っかり親子で似やがんじゃねぇよコンベラバァ!
                   【了】


○●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて戴き
ます。次号配信まで、御機嫌宜しゅう。
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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第七巻弐拾回 2010.10.25発行

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