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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第七巻弐拾四回  小説「浮かぶ瀬の縁」
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**弐拾号より横幅を若干拡げて配信しております**

御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
本年度最終号、そして小説配信回、お楽しみ戴ければ
幸いです。

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 浮かぶ瀬の縁
                             XQO

 「極楽極楽」
 呼吸する様に口走ってしまう程この風呂屋は気持ち
が良い。通う様になって二年足らずだけどどんな時間
に来ても空気がしっくり肌に馴染んでくる。
 ここに落ち着くまでは本当に転々とした。主に自分
自身の馴染めなさが原因だけど、一箇所本当に酷い所
があった。誰が信じるだろう。洗い場に入るのにノッ
クが必要な風呂屋だなんて。しかもそれは風呂屋が提
示したルールじゃ無かったと言うね。規模から考える
と行きずりも交差する風呂屋なんだからそこまで一見
さんお断りにしてどうするんだと後日余所事ながら心
配になった。居座り易い環境だったから自宅の延長に
したい気持ちは判るんだけどね。でもそれは自分で仕
切る領域じゃねぇだろと。そう言うのを自治じゃなく
て我儘で仕切りだしたらそりゃ店に新規客も来なくな
るわ、と今ならばきっぱり言える。
 それでもその店に通い出してから暫くは我慢した。
自分の世間知らずさ加減は承知していたのでこれもま
た流儀の一つなのだろうと合わせようとした。全く酷
いもんだ。浮世の色々を流す筈の風呂で憂世の泥をか
ぶって帰る羽目になる繰り返しなんだから。
 その泥沼反復から救ってくれたのが他ならぬ相方・
眞季だった。
 その店に通いだして一ヶ月、週末だからと眞季と一
泊した先で流石に我慢の緒が切れて一升瓶抱いて泣き
上戸が入った。発散するつもりの酒が悪い方に作用し
たらしい。
 「…風呂付の部屋に引っ越す選択肢は無い訳ね?」
 「うん、ない」
 そう言う状況下でも外風呂に拘る自分はなんなんだ
と今でも思う。極度な人見知りの癖に銭湯とか人が行
き交う空間は好きなんだよな昔から。だから銭湯探し
は元々苦にならなかった。それこそ移動出来る範囲内
なら行ってみたし、その中で学べたと思える事だって
沢山あった。思えば銭湯は自分にとってもう一つの学
校だったんだろう。それで執着したのかも知れない。
 「そっか…うん、なら、そうするか」
 顎を掻いて一頻り考えていたかと思うと自分に言い
聞かせる様に頷き、そして口元を綻ばせる我が相棒。
その相棒が無言でこっちに握らせたものは…。
 「…回数券?」
 「どうせ通うならうちの実家に通いなよ」
 「風呂屋の息子だったんだ。贅沢な!」
 「うん。だから俺も家に戻る」
 「へ?」
 「家業が嫌で独り暮らししてた訳じゃないんよね。
外の水を一寸飲みたかっただけで」
 「ふむ」
 「まあ、血縁には俺がこう言う奴だってのはもう知
られてるんで。その上でその気になれば店を任せると
も言って貰ってるし」
 「捌けてるね」
 「稼ぎ手である事には変わりないしね。これって安
心材料じゃない?」
 「まあ、そうだね」
 「何よりもさ、嫌なのよ。風呂屋でリラックスでき
ないって話を聞くのが。増してやそれが自分の身内の
口から出た話だったりした日にはね」
 「うち、身内?」
 「疾うの昔に」
 この告白は実に良く効いた。正に頓服だった。普段
「男」を誇示しない奴が見せた侠気だったから余計に
染みたのかも知れない。
 流石に温泉帰りのその足で銭湯に行ったと言うのは
浮かれ過ぎだったかも知れないが。

 そんな訳でここ二年ばかりは少し混み合いだした夕
方の風呂屋で羽を伸ばしてから部屋に帰るのが習慣に
なっている。特別扱いなんて一切無い。経営者である
所の眞季の御両親から打診は戴いたがこっちから丁重
に辞退した。過剰な甘えは何かを壊すしね。
 冬至振る舞いの柚子茶を飲み干してサテと身を伸ば
すと番台に座る眞季の肩越しに年末年始の営業の報せ
が目に入った。全くこの風呂屋は何時休む気なんだ。
大晦日の二三時五十九分に店を閉めて元旦卯の刻に店
を開けるってか。眞季との年始は番台越しでやるしか
ないなと苦笑しつつ帰ろうとしたら隙をみて何やら握
らされた。帰って拡げてみると一筆箋に走り書き。

 「卯の刻前の風呂掃除手伝い希望。雑煮とお節のテ
イクアウト付」

 こう言うのも家族扱いの内に入るんかね、と苦笑し
つつ携帯電話のメールで承諾と返信する。
                     【了】

○●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて戴きま
す。
本年中はお世話になりまして誠に有難うございました。
明年も変わらぬ御贔屓を賜る事が出来ましたら幸いで
す。
では次号配信まで、御機嫌宜しゅう。

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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第七巻弐拾四回 2010.12.25発行

文責:葡萄瓜XQO
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