★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
☆
第八巻八回  小説「ゆるりとひらき」
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

**第七巻弐拾号より横幅を
         若干拡げて配信しております**

****

3月11日に発生しました東北地方太平洋沖地震(東北
大震災)にて罹災した皆様方に心からお見舞い申し
上げます。
居住地の差異の為たまたま罹災しなかった筆者に出
来ます行動は限られておりますが、幾許かが皆様の
潤いに繋がりますならば幸いです。

****

御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回、お楽しみ戴ければ幸いです。

○●○

   ゆるりとひらき
                   XQO
                                
 「まだ少し若い加減かも知れないけど」
  そう言われつつ差し出されたマグカップの湯の中
に踊る八重桜二輪。
  「あの時摘んでた奴?」
  「そう。今年の漬け初め」
  淡々と言葉を交わしつつ目を配る。でも然程変わ
った感じは受けない。受けさせない様に気を配られ
ているのかも知れない。それなら気付くべきではな
いのだろう。
  「まあ、良い加減でないの?」
  「そうかなぁ」
  「漬かり過ぎて塩辛くないのなら良いと思う」
  「そうだねぇ」
  「それに、自分遣いだけなんだからさ」
  「まあね」
  そして言葉は途切れ、湯を啜る音だけが陽射しに
混じる。
  「ふ」
  「何よ、その息遣い」
  「いや、なんつうかねェ。お互い枯れたかね、と」
  「はい?」
  「こう言う展開で大人しく日向ぼっこだけしてる
様になったの、何時からだっけ?」
  「あー…、忘れた」
  「そう言う事にしておこうかね」
  身勝手に考えてしまう。こう言う時雀でも来てく
れていれば話を逸らす事も出来るのに、と。昔は雀
の囀りに気付かない程彼是と性急だったのに。枯れ
たと言うよりも程好く馴染んだのかも知れない。二
人で過ごす怠惰さに。
  
  なんだかんだの付き合い二十年間の内一緒に過ご
した時間と言うのは実は片手で足りる程の年数しか
僕等には無い。学校で同級生だった事は一度しかな
いし、同窓生だったとしてもすれ違いが常態だった。
確実にお付き合いを始めてからは更に酷く電話やチ
ャットのタイミングを合わせるのでさえ難しいと言
う。お互い何処のVIPだよと何回メールで愚痴っ
た事か。携帯電話のショートメッセージ機能の発達
をあれ程有り難く思った事は無い。
  束縛し束縛される関係には常に焦がれていた。二
人だけで完結できる世界の素晴らしさを無邪気に信
じた頃もそうでなくなった後も焦がれていた。
  何時からそう言う焦りがなくなったのだろうと思
う。愛着は変わらずあるにも拘らず。
  そしてふと隣に変わらず在る気配の感じにああ、
と気付く。
  この気配が常に隣に在ると言う事を自覚してから
落ち着ける様になったのかも知れない。何回も確認
しなくても、この気配はずっと自分の隣に在って支
えてくれる。だから、焦って貪らなくても良いのだ
と判る様になってから。

  桜湯を味わう横顔を眺めていると色々感情が爆発
しそうになる。こう言う時常に乾いていた頃の様に
雪崩れ込めれば、と考えかけて違う違うとセルフツ
ッコミ。気持ちがついて来ない状態で雪崩れ込んで
も生理的にスッキリするだけで心は満たされない。
鏡相手の行為じゃないのだから。
  こう言う深呼吸を覚えてからかなり落ち着いて愛
する事が出来る様になったかな、と思う。少なくと
も、目の前の相手の状態に気を配りながらペース配
分出来る程度には。
  焦らなかった事なんて一度も無い。彼奴が外側に
向かって自分の世界を構築して行くのに対し、こち
らは留まらざるを得ず、結果的に寄港地の様な存在
になっていたのだから。
  だから、考え方を変えた。
  色恋で繋がって束縛しようと思うから不安になる。
それならば家族を見守っているつもりになれば良い、
と。
  そう思い始めてから十年が過ぎ、やっと最近理想
に近付けた様な気がする。そして知る。家族で居る
と思い過ごした日々の方が色恋に拘っている時より
心の距離が近かったんじゃないか、と。
  刺激的なときめきからは確かに遠ざかったと言え
るけど、そう言う温かい距離感を入手出来たのなら
ば悪くは無い。御の字って奴だ。
  
  背伸びをする後ろ姿を見ると少しは寂しくなる。
これでまた物理的な距離が少し開くのかと。
  「ねえ?」
  「ん?」
  「また、帰って来ても良いよね?」
  「ここに?」
  「そう。完全なiターンまでにはまだ少し掛かる
けど」
  涙が出たのは不意の陽射しの所為だと言う事にし
よう。部屋数だけはあるからその日に備えておかね
ば。     
                   【了】

○●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて戴きま
す。次号配信まで、御機嫌宜しゅう。

=========================
仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第八巻八回 2011.4.25発行

文責:葡萄瓜XQO
website:『仇花の記憶』
http://kamakura.cool.ne.jp/xqo/
mail:xqo_gm@yahoo.co.jp

このメールマガジンは
melma! 
http://www.melma.com/backnumber_90840/

Mailux
http://www.mailux.com/mm_dsp.php?mm_id=MM3FAB47D02D533

おしらせメールサービス
http://www.marine.ne.jp/mm/user.asp?id=75297

まぐまぐ
http://www.mag2.com/m/0000270330.html

E-Magazine
http://www.emaga.com/info/adabana.html

のシステムを利用して発行させて戴いています。

ご意見ご質問等はWebサイトBBS
http://otd11.jbbs.livedoor.jp/adabana/bbs_tree
にて承ります。
又連動BLOG「ショタやおい雑記」も運営しております。
http://xqosy.seesaa.net/
こちらも宜しくお願い致します。

バックナンバーはサイト内にて公開しております。
再配信ご希望の場合はお手数ですがメール若しくは
BBSにてご用命戴ければ幸いです。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
back   配信済top   次回配信分