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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第拾巻六回  小説「白く、煌めく」
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2011年3月11日に発生しました東北地方太平洋沖地震
(東北大震災)にて罹災した皆様方に心からお見舞い
申し上げます。
居住地の差異の為たまたま罹災しなかった筆者に出来
ます行動は限られておりますが、幾許かが皆様の潤い
に繋がりますならば幸いです。

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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回、お楽しみ戴ければ幸いです。

〇●○

   白く、煌めく
                              XQO
                              
 彼の眼の動きは本当に飽きない。黙っていれば本当
に上等なのに一言洩らした途端残念になる彼。そう言
う彼の眼の動きをほぼ五〇センチ以内の至近距離で見
る事が出来るのは実際相当な特典なんだろう。現時点
ではほぼ毎日見ていても飽きないと思う。
  「あのさ」
  不意に呼びかけられて少し慌てる。別に不埒な真似
を仕掛けた訳じゃない。布団の中でもない。でもなん
か焦る。
  「?」
  「悪いんだけど」
  「うん」
  「鼻息、うざい」
  その鼻息を荒くさせている本尊が良く言うよ。見た
目が絶品と言うのはそれだけでも充分罪深いと思う。
見た目に惹かれて恋をしたなんて断言するつもりはな
いけど、この見た目がこっちの心理に色々と影響を与
えている件については否定しない。
  「それにしても、奇跡的だよね」
  「何が?」
  「おたくの口腔内。ここまで放置されても綺麗な状
態ってのは奇跡的だよ」
  「褒めてる?」
  「褒めてる。同時進行で呆れてもいる」
  無影灯を横に遣りながらマスクを外し盛大に苦笑す
る彼。
  「時間外でも良いからそろそ」
  「駄目でしょ」
  有難いと心の中で手を合わせつつ、けじめだけじめ!
と気を奮わせる。
  「今度こそ時間を合わせるから、通常予約でお願い
します」
  「良いんだね?」
  「依怙贔屓は良くないでしょ?」
  「確かにね。じゃ、明後日の一八時で?」
  「それでお願い。保険証、今預けとくよ」
  「わかった。渡しとく」
  主治医と患者と言う関係には私生活は関係ないもの
ね。
  
  恋に堕ちたのと歯を巡っての関係が始まったの、ど
っちが先かと問われれば恋の方だとはっきり言える。
それこそ恋云々と言う前から結構な腐れ縁だったから
気心は知れたもんだ。
  そう言う相手に口の中まで晒すのには実は結構な躊
躇いがあった。奇妙な恥じらいだとは我ながら思う。
バランス感覚の重心が一寸ずれているのかも知れない。
  でも、彼はその恥じらいに対しあっさりと言い放っ
たのだ。
  『その口の中、こっちの所有物でもあるから弄らせ
なさいよ』
  色々考え合わせれば間違った言葉ではない。でも諸
手を挙げて正論だとも言えない。一寸はオブラートに
くるめよと耳にした時は正直カチンときた。
  でも結局受け入れたのは、後にもう一言くっついて
きたからだ。
  『弄るからには施療者としてのベストを尽くすから』
  そう静かに付け加えた彼のたたずまいは、充分プロ
のものだった。だから結局任せた。そして今日に至る
まで彼はその自分の言葉を裏切った事は無い。歯石を
迅速に取って負担を軽減させる為に、と最新型の超音
波式歯石取り器(スケーラーと言うそうな)を手始め
に導入して以降、道具や設備は施療される毎に進化し
ている。それだけではなく彼の腕前もじわじわと進化
している。去年なぞは親知らずの抜歯が予定の半分の
時間でスムースに終わった程だ。もっともこれは彼曰
く、僕の親知らずの生え方が素直だった事に起因する
らしいが。抜いた後のブツを見せて貰ったら確かに見
事な歯の形だったし。だから磨いて保管した。そして
我ながら一寸趣味が悪いと思うけど指輪交換ならぬ親
知らず交換なんてのをついしてしまった。余りにも都
合良く抜歯済みの彼の親知らずが在ったものだからつ
い出来心で。保管されていた彼の親知らずを見た時、
彼のプロ意識の源を垣間見た気がした。あれだけ綺麗
に取り出された親知らずを見たら負けてたまるかと言
う気にもなるんだろうきっと。
  そう言う気持ちがあるから予約時間に間に合わず自
己都合キャンセルを重ねてしまおうがどうしようが、
今更彼以外の歯科医に口の中を弄らせようと言う気に
なれない。我ながら結構な我儘贔屓なんだろうとは思
うけど、安心感が違ってしまうから。
  そして始末の悪い事に彼はもてる。まあその飛び切
りの腕利きの歯科医として。そう言う場所に色恋を持
ち込んで贔屓して貰うのはずるっこだろうから僕は普
通に並ぶ。歯科医の彼に敬意を表し。   
                    【了】

〇●○

此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて戴きます。次
号配信まで、御機嫌宜しゅう。

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体制になって2013年2月中旬から再開しております。

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毎週水曜日21:00(午後9時)頃〜

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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第拾巻六回 2013.3.25発行

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