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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第拾巻拾回　　小説「するりとせ」
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2011年3月11日に発生しました東北地方太平洋沖地震
（東北大震災）にて罹災した皆様方に心からお見舞い
申し上げます。
居住地の差異の為たまたま罹災しなかった筆者に出来
ます行動は限られておりますが、幾許かが皆様の潤い
に繋がりますならば幸いです。

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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回、お楽しみ戴ければ幸いです。

〇●○

　　　するりとせ
  　　　　　　　　　　　　　　ＸＱＯ
                              
  また、目を逸らされている。
  付かず離れずの縁になったのだからそれなりに積極
的に絡もうとするのだけどどうも意図的に好機をずら
されている気がする。
  歳の差を気にして気遅れていると言うのならそれは
お互い様と言うものだ。むしろこっちが臆病になって
いると言って良い。
  年寄りの権限？そう云うものが万能手形になると信
じ込んでいる様では惚れた腫れたに夢中になる事は出
来まいよ。
  
  そもそも俺がこの若いのと組む様になったと言うの
は自由意志の上じゃ無い。簡単に言えば家庭の事情っ
て奴で、細かく言えば新旧交代の一環って事だ。
  だから前の相棒と今生の別れと言う一瞬には不覚に
も心が揺らいだ。彼奴も同じ様な状況だったらしいと
は噂雀の伝言。その割には清々した気配もあったがな。
まあ俺達の立場の事だ。俺と彼奴の位置が入れ替わっ
たとしたら同じ様な噂が程無くして彼奴の耳に入った
だろうよ。そして彼奴もアイツは随分さばさばした奴
だったと苦笑いしたんだろう。
  まあ俺にした所でお湿りを味わってても二進も三進
も行かないのでさばさばせざるを得んわな。お湿りの
度合で彼奴が返ってくる可能性が高まるってんなら兎
に角、覆った前例が全く無い今生の別れを済ませた後
な訳だから。だから後は彼奴の後釜とそれなりに馴染
むしかあるまいよと肚は決めた。彼奴と遣った事を今
更繰り返すってのも手間は手間だが、そこはそれ伊達
に古びた訳じゃないしな。
  とは言うものの、まあ時間差ってのはしっかり残酷
なもので言葉は共有出来てる筈なんだが感覚の共有が
今一つしっくりいかない。
  俺の側にも原因はあるわな。不覚にも一目惚れしち
まったんだから。先の相方と別れたばかりで惚れた腫
れたなんてどう言う了見だと散々詰られても仕方ない
んだが、コロリと落ちてしまったもんは仕方が無い。
その一点が多分変なしこりになっちまってるんだろう
な。
  深慮と遠慮とは多分違うんだ。こう言う野暮なざま
の時にはズケズケ踏み込む莫迦さ加減もきっと必要な
んだろうさ。で、それを先にやるべきはきっと俺みた
いな立場の方なんだ。
  
  また、上手く言えなかった。
  ああもう、どうしたもんかなと自分の不器用加減が
つくづく嫌になる。折角先代から貰った耳打ちもこの
ままじゃきちんと使いこなせないままお払い箱になり
かねないや。そんなんやだよ冗談じゃないよと駄々捏
ねたくはなるけどさ、餓鬼の頃なら兎に角として曲が
りなりにもあの人の隣に相方として立っている以上は
許される駄々じゃないよな。
  折角一目惚れした相手の隣に立てたってのにさ、な
んだよここ暫くのおいらの無様さと来たら。御贔屓筋
からも呆れられるより先にしっかりおしよとお涙頂戴
になりかねないってね、格好悪いったらありゃしない。
  色々あってそろそろって塩梅で引き合わされた時、
あの人はおいらの事なんてこれっぽっちも覚えてなか
ったみたいだった。仕方ないよな。何しろ猪の方が逃
げる程の猪突猛進振りだから。でも先代はおいらの事
を何故かはっきり覚えてた。
  「あーた、あン時の坊やだね？」
  「…です」
  ふっと笑って髪かき回されて、そして言われた。
  「そこまでになったあーたになら、守り役を譲って
も大丈夫そうですね」
  「守り役、ですか」
  「他になんか適当な言葉、ありますか？」
  「…無さそう、ですね」
  「まあ、守りのし甲斐はありますよ。渡すのが惜し
くなる程度にね」
  さりげない一言だけど、一瞬怯んだ。
  そしたら抱きつかれて言われた。
  「これだけしっかり男になったんなら、譲り甲斐も
あるってもんか。…頼みましたよ」
  贈られた塩は、本当に重い。
  「良いんですか？本当に？」
  「タスキってのは後生大事に抱え込むもんじゃなく
て綺麗に渡す為のもんですよ。相手が腑抜けてりゃ渡
しゃしませんけどね」
  「それって」
  「あーたはとうの昔に及第点だって事です。これ以
上四の五の言うなら抱いちまいますが良いんですか？」
  「良かないです」
  今思えば先代に抱かれた方が度胸がつ…いやいやい
や、そうじゃないだろって。折角の塩を湿気らせない
為に、おいららしい一歩であの人に近づかなきゃ。　　
                                    【了】

〇●○

此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて戴きます。次
号配信まで、御機嫌宜しゅう。

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第拾巻拾回　2013.5.25発行

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