★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
☆
第拾巻弐拾弐回  小説「ひとすじまっすぐ」
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
2011年3月11日に発生しました東北地方太平洋沖地震
(東北大震災)にて罹災した皆様方に心からお見舞い
申し上げます。
居住地の差異の為たまたま罹災しなかった筆者に出来
ます行動は限られておりますが、幾許かが皆様の潤い
に繋がりますならば幸いです。

****

御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回、お楽しみ戴ければ幸いです。

〇●○

ひとすじまっすぐ               
                               XQO
                                
 弘法筆を選ばずとかペンは剣よりも強しなんて言う
けど、お大師様だって粗略に扱われ過ぎた上でボロボ
ロになった筆を遣いたくはないだろうし、インクがこ
びりついて錆びついたペン先から雄弁な考えが生まれ
るとは正直思えない。それなりの言葉を紡ぐ道具なら
それなりに手入れをしないとね、と言う事で毎年一本
年賀状用に筆を下ろす様になってもう何年経った事か。
まあ人間生きていれば変化もあるのもので、七年前か
らはこの習慣が一人だけのものではなく董弥と一緒に
行うものとなっている。
  「…ふぅ……」
  「お疲れ」
  「悪いな」
  これもまた毎年の様式美。普段は互いのお茶に干渉
するなんて御免だが、筆を下ろす瞬間の緊張感の後に
濃い目のお茶が欲しい気持ちはお互いによく判る。だ
から交代で労いと同病相哀れみを込めて一服淹れるの
だ。
  筆下ろしでここまで緊張するのだから年賀状を書く
段なんてどこまで…と思ったりもするんだが、意外と
書く段については互いに緊張はしていない。遣い易く
なった道具ならむしろ気軽に書けると言うものだ。
  それに実は遣っているのは書道用の小筆じゃなくて
面相筆だ。それも相まってかなり気軽に遣えている。
  「今年も、気に入るのは無かったのか?」
  「ない」
  即答に董弥の苦笑が返される。
  「技術は進歩したのにねぇ」
  「ほんとにな」
  筆下ろしの緊張感は正直嫌いじゃない。でも流石に
疲れる。これは互いの共通見解。だから毎年筆ペンを
遣ってみようと吟味はするんだが…なんでこう一長一
短な品が多いのか。いや違うか。こっちの注文が多過
ぎるのか。
  思えば董弥との出会いは近所の書道教室での事だっ
た。書いても書いてもいい加減見本通りにならず性に
合ってないのかとくさっていた俺の前に現れて実に軽
快に花丸モノの作品を仕上げていたのが董弥だった訳
で。しかもこいつは自分が仕上げたものに一切満足し
ていないと来たもんだ。こんな奴もいるのかと言う呆
れがいつか好奇心になり、十年前には変と言うか恋に
なっていた、と思う。そう言う経緯のお蔭か俺の筆跡
は格段に、と言う風に矯正された。董弥をびっくりさ
せたい、鼻を明かしたい、振り向かせたい、それから
…それからと言う感じで感情が進化して、それに運動
神経がついていったのかも知れない。
  で、ふと思い出した。
  「なあ」
  「ん?」
  「中坊の時さ」
  「うん」
  「俺の机の中に一筆置いてたのって、もしかして」
  溜息と呆れ顔を返される。
  「お前ね」
  「うん」
  「干支一周と少し回って人の一世一代の決心の真意
が伝わった瞬間の気持ち、判る?」
  「判るかよ!回りくどすぎるってんだ」
  それ以上不毛な遣り取りはしたくないので引き出し
の底から証拠の品を引っ張り出して広げる。
  「……物持ちが良いな」
  「手本にもなったしな」
  四つ折りになった半紙を広げると、少年だった頃の
董弥の筆跡が視界に飛び込んでくる。『友達』『とも
だち』『トモダチ』と行を変えて書かれた文字の意味
が、今ならしっかりと判る。
 「懐かしいよな」
  「色々とね」
  「ま、生憎俺はもうあの頃には友達とは思って無か
ったけどな」
  「ん。体感して判った」
  あの時実際に一歩進めたのは俺だった。でも、この
筆跡の意味をきちんと判っていたなら、また違う始ま
りがあり得たんだろうか。
  いや、多分到達地点は同じだから、一緒の話か。
  「還暦過ぎたらさ、筆を交換しない?」
  「……どの筆?」
  「アホ!髪で作った筆だよ」
  「ああ、なるほどね。……残るの?」
  「言うな!本人が一番気にしてるんだから」
  そんな馬鹿話をしながら、また二人で過ごす年を重
ねてゆく。まだ安心するには早いかも知れないけど、
とりあえず希望的観測を楽しめる程度には安定してる
んだろう。それはそれで凄く幸せなんだと思う。
  とりあえず保険の為に後で髪を切って遺しておこう
か。あくまで保険として。
                     【了】

〇●○

此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて戴きます。次
号配信まで、御機嫌宜しゅう。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

BoysLoveみそひともじ朗詠 
http://com.nicovideo.jp/community/co1421231
定例配信:毎月第一月曜日・21:00(午後9時)頃〜

雑談枠:「合切袋のプチ整理」
毎月第三月曜日・21:00(午後9時)頃〜

お時間がありましたらよろしくお付き合いください。

また、『BL夜伽ラヂオ』第二期までの準備期間中、カ
テゴリ雑談放送として「ボーイズラブこざらじお」を
配信致します。

「ボーイズラブこざらじお」
毎月第二及び第四火曜日・午後9時半(21:30)頃開始。
30分ひと枠配信
http://com.nicovideo.jp/community/co1391827

今期の配信は後二回となりました。併せてご愛顧戴け
れば幸いです。

=========================

仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第拾巻弐拾弐回 2013.11.25発行

文責:葡萄瓜XQO(ぶどううり・くすこ)
http://xqo.ooh.jp/mag/
mail:xqo_gm@yahoo.co.jp
  :xqosy@aol.com(メールマガジン専用アドレス)
連動BLOG「ショタやおい雑記」
http://xqosy.seesaa.net/

このメールマガジンは
melma! 
http://www.melma.com/backnumber_90840/

Mailux
http://www.mailux.com/mm_dsp.php?mm_id=MM3FAB47D02D533

おしらせメールサービス
http://www.marine.ne.jp/mm/user.asp?id=75297

まぐまぐ
http://www.mag2.com/m/0000270330.html

merumo
http://merumo.ne.jp/00609565.html

のシステムを利用して発行させて戴いています。

また独自配信も開始しております。
http://xqo.ooh.jp/mag/d-send.html

ご意見ご質問等は上掲メール宛、若しくはサイト内
設置メールフォームよりよろしくお願い致します。
http://xqo.ooh.jp/mag/form/

バックナンバーはサイト内及び各配信スタンドにて
公開しております。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
back   配信済top   次回配信分