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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第拾壱巻拾八回  小説「さらりの間合い」
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2011年3月11日に発生しました東北地方太平洋沖地震
(東北大震災)にて罹災した皆様方に心からお見舞い
申し上げます。
居住地の差異の為たまたま罹災しなかった筆者に出来
ます行動は限られておりますが、幾許かが皆様の潤い
に繋がりますならば幸いです。

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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回、お楽しみ戴ければ幸いです。

〇●○

   さらりの間合い
                     XQO
                                
 「茶ァ、くれる?」
  「あいよ」
  待ってましたとばかりに湯呑に注がれるのはぱっと
見出涸らしに近い様な限りなく湯に近い茶。いつもの
食事時やお八つ時にはまず出ない感じのそう言う茶。
  ああ心得てくれてるなと心の中でそっと手を合わせ
つつ茶碗にへばりついて適度に冷えた飯の上にその茶
をざっくり掛け回して塩昆布を摘みつつかき込む。
  ああ、良い。寛げるわ。
  目の前で全く同じ動作をやってる相方も居るから余
計に寛げるわ。
  「昆布変えた?」
  「ああ、市場の奴が切れてたんでスーパーで」
  「美味しいのは美味しいけどさ」
  「これが終わったら市場のに戻すか」
  「俺はその方が良い。あ、無理な速度の消費はしな
くて良いから」
  「ヘイ承知」
  お互いそう言う所に拘りがあるのは承知の上。俺だ
って先週あさりの佃煮が無いってごねたし。その時に
は流石に言われた。
  「到来物は滅多にないからそれなりに妥協しろよ?」
  お互いそう言ういぶし銀の舌を持つ知人が少ないか
らね。
  
  しみじみ歳喰ったなと思う…と言えば四十路を迎え
ても居ないのに生意気言うんじゃないよとどやされる
気がする。現実はどうあれ思ってしまうんだから仕方
がない。かと言ってそれ程波乱万丈な道を辿って来た
訳でもない。只二人で居ると言う事を納得したかった
し納得させたくてどうにかこうにかやって来ただけだ。
  これで柳に風と受け流せる性質だったなら気楽だっ
たかも知れない。世間は世間で個人に何があろうと勝
手に流れるものだと割り切って置けば波風が立つ事も
無かった。
  ただ、世間には他人にとってのルールブックで居た
がる人ってのが一定の割合で居るらしい。そう言う手
合いが勝手に干渉してくるのだからとりあえずの対処
も必要になる。
  まあ、過ぎてしまえば、ね。かと言って美化して懐
かしむ心算は更々無いが。
  そう言う所にもスタミナを遣い過ぎた所為なのかど
うかどうか判らないが、今は二人で囲むあっさりとし
た一膳にとても和んでしまう。あっさりとしたと言っ
ても具によっては偶にこってりもあり得るんだけど、
さらりと流していく事を愉しんでいるには違いない。
  ここまで馴染んでいるならいっそ家で具を作るかな
んて思い立って、実は互いに一回ずつ作りはした。
で、結論。素人は迂闊に手を出すな。ああいう味わい
を引き出すのもまた年輪と技なのだと改めて知った二
人だった。
  で、そう言う味わいを引き出したいからこそ茶には
控え目で居て欲しい訳で。勿論さらりと行く時に茶を
主役にする事だってある。ただその時は一切脇役は登
場しない。茶と飯、その二枚看板の競演だけで良い。
茶の爽やかな苦みと飯のじんわりした甘味が噛み合う
瞬間を味わいたくてその組み合わせにするのだから。
  
  で、そう言う食卓に判断に困るおかずが並ぶと柄に
なく迷ってしまったりする。
  「…一体何分迷うつもりだ?」
  「悪い。あと五分」
  「それ、三回言ってるよな?」
  「…すまん」
  「いや、気持ちは判る。実は僕も悩んだ」
  「おい」
  四季折々に美味くなる魚があるのは有難い。その脂
の焦げた匂いだけでも食欲が進んだりするので気分的
にしんどい時にもどうにかなってしまったりする。そ
の旬の魚を茶漬けにしたいと言う衝動は、業なんだろ
うなぁ。
  「西京漬なら良かったね」
  「ったく、他人事みたいに」
  「基本的に他人事だし?」
  ああ言えばこう言うのはどっちに…いや、これはお
互い様と言う奴だな。そう言う部分も無ければとっく
に離れてた。
  「決めた」
  「やっと?」
  「ひつまぶし形式で行く」
  「あー…まあ、妥当かもね」
  そこで手際よく小皿が登場するのが信じらんねぇ。
アラレが湿気た様子も無いし。
  「変な所が似て来るのは……妙な気分だけど厭じゃ
ないからね」
  視線を逸らして言う台詞かよ。同感だけど。
  じゃ、まあ、かき込みますか。
                      【了】

〇●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて戴きま
す。次号まで、御機嫌宜しゅう。

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併せてご愛顧戴ければ幸いです。

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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第拾壱巻拾八回 2014.9.25発行

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