★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
☆
第拾四巻八回  小説「風待ち日和」
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
2011年3月11日に発生しました東北地方太平洋沖地震
(東北大震災)にて罹災した皆様方、2016年4月14日に
発生しました平成28年熊本地震にて罹災した皆様方に
心からお見舞い申し上げます。
居住地の差異の為たまたま罹災しなかった筆者に出来
ます行動は限られておりますが、幾許かが皆様の潤いに
繋がりますならば幸いです。

****

御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回、お楽しみ戴ければ幸いです。

〇●○

   風待ち日和
                XQO
                                
 M氏は遠目に見知った顔があると判って心底安堵し
た。久しく見ていなかった顔ではあるが、それでも縁
である事には違いない。一筋の縁も無いよりは心強い
と言うものだ…と独り言ち、せめてもと軽く片手を挙
げて合図を送った。
  相手は運良くそれに気付いたらしい。それまでの場
の空気に辟易し切った表情をさっと捨てて、M氏の記
憶にあるとびきりの微笑みを浮かべつつ歩み寄ってき
た。
  そう、そこまでは普通に良くある再会の一瞬だった。
M氏の相手、P氏がM氏の記憶の中より一尺近く背丈
を伸ばしていなかったなら。
  
  「…人違いと言う事にされなかっただけ、良しとし
ておきます」
  「いや、本当に申し訳ない。縋っておきながら無礼
な真似をしてしまうとは」
  「良いんです。久しく会ってない人は大体そういう
反応になっていますから」
  〜氏、と言う呼び名が正に相応しくなった風貌で拗
ねられるとそれはそれで困るものだな、とM氏は場違
いな感慨を抱いていた。
  そもそも今回の非礼は完全にM氏が悪い。遠近法を
無視して遠目に見かけた相手の背丈を想定し、彼が伸
び盛りの年頃であった事を完全に失念していたのだか
ら。
  それにしても、と思う。
  一尺背が伸びたとは言え、M氏の心の中にあったP
氏の体の均整は崩れていない。伸びるべき所が程好く
伸びているのでそのまま上手く背が伸びた様に見える
のだ。
  そう思って改めて顔立ちを見るとそちらにも当然の
様に変化があった。子供のそれより一歩大人のそれに
近づいた、そういう若干の配置の修正が。ただそれも
激しく著しいものではなく、均整を保ったまま変化し
た様なので変わらぬ印象を受けたのだろう。
  「息災な様でなによりだった」
  「お互いに、ですね。何時こちらに?」
  「実はつい先刻でね。情報は入っていたんだが実際
体感すると色々戸惑うものだね」
  「そう言う所に僕が偶々、と」
  「そう、あの時の様にね」
  「幸運なんだか不運なんだか、って感じですか」
  苦笑に紛れて息をつき、コーヒーカップを傾ける。
そう言えばこう言う所にも変化はあったな、とM氏は
思い至った。
  「君と並んでブラックコーヒーを飲む日を迎えられ
るとはね」
  「似合いませんか?」
  「いや」
 「ミルクホールに行かなくても牛乳は飲める。そう
なっただけなんですが」
  「変わったんだね、色々と」
  「ええ、色々と」
  その口調に一抹の寂しさが混じっている様に感じた
のは、M氏の思い過ごしだろうか?
  「時に、今のお住まいは?」
  沈黙を厭うかの様に言葉が継がれた。
  「用意の打診もあったが、どうせなら自分で選びた
いと断ってね。それまでの間は浮流亭に逗留しようか
と」
  「色々掛かりませんか?」
  「完全な洋式に比べればかなり身近な話になるとは
思うよ」
  「そう言うものですか」
  「家に居辛いから色々冷ます為に逗留する手合いも
若干居るしね。ある程度の長逗留にはそれなりに値引
きもしれっとあるから」
  「魚心に水心、ですか」
  「そうなるね」
  「君は?」
  「僕は港寄りの下宿屋に移りました」
  「ああ、なるほど」
  「ただ、そろそろそこも出ると言う話がちらほらあ
るんですが。色々古いから」
  「あそこももうそんなに……、ああ、なるね」
  「その思案も兼ねて歩いていた、と言う次第です」
  「先程の君の言葉を返しておくよ」
  「……浮流亭、空き、ありますかしら?」
  「帳場に聞く方が早いと思うが」
  「ですよね」
  そして、溜息。
  「実は逗留しているのは元々二人部屋でね」
  「はあ」
  「布団を一組頼めれば、一晩二晩は何とかなるだろ
う、多分」
  「良いんですか?」
  「貸しを一つ返すだけさ」
 「ありがとう、ございます」
  P氏は色々含ませて、微笑んで返した。夏の風を待
つ、そう言う日和の幕間劇。          
                    【了】

〇●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて戴きます。
では次号まで、御機嫌宜しゅう。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

BoysLoveみそひともじ朗詠 
http://com.nicovideo.jp/community/co1421231
定例配信:毎月第一月曜日・21:00(午後9時)頃〜

雑談枠:「合切袋のプチ整理」
毎月第三月曜日・21:00(午後9時)頃〜

お時間がありましたらよろしくお付き合いください。

2017年1月より『BL夜伽ラヂオ』第五期を配信しています。

BL作家紹介放送「BL夜伽ラヂオ」
基本的に毎月第二第四水曜日・午後9時(21:00)頃開始。
概ね30分ひと枠配信
http://com.nicovideo.jp/community/co1391827
第09回は4月26日(第四水曜日)配信。
お題は「尾上与一」でお送りします。
そして第10回は5月10日(第二水曜日)配信。
第6回から9回までを振り返る小回顧枠・その弐をお送り
します。

併せてご愛顧戴ければ幸いです。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

以下、商業媒体告知です。

宙出版・刊『このBLがやばい! 2017年度版』(2016年12月12日刊) 
http://www.amazon.co.jp/dp/4776796805/ 
にて、当方はBL通の末席で「あなたのBL BEST5」(コミック
・小説)選者で参加しました。
加えてランキング発表後のBL座談会で腐女子ブロガー・
ほたるさん(「BLの沼」管理)ととらのあな・商業誌
担当:担当Kさんと鼎談させて戴いております。
御高覧ください。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

商業媒体告知、2件目です。
2015年11月25日より集英社より電子書籍配信されている
ブリンクコミックスデジタル・ことり野デス子先生
「フダンシ革命」第2巻巻末企画にて、ことり野先生と
腐男子として対談させて戴いております。
http://www.amazon.co.jp/dp/B0177H72ZO/
http://books.rakuten.co.jp/rk/42718e40b81938e788ce1e4a32558366/
ご高覧戴けましたら幸いです。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

商業媒体告知、3件目です。
2015年8月20日に玄光社から刊行されました
『はじめての人のためのBLガイド』【表紙:宝井理人】
http://www.genkosha.co.jp/gmook/?p=8721 
http://www.amazon.co.jp/dp/4768306462/  
の企画・「私が選ぶ○○BLベスト5」の選者の一人と
して参加させて戴きました。
ご高覧戴けましたら幸いです。

=========================

仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第拾四巻八回 2017.4.25発行

文責:葡萄瓜XQO(ぶどううり・くすこ)
http://xqo.ooh.jp/mag/
mail:xqo_gm@yahoo.co.jp
  :xqosy@aol.com(メールマガジン専用アドレス)
連動BLOG「ショタやおい雑記」
http://xqosy.seesaa.net/

このメールマガジンは
melma! 
http://www.melma.com/backnumber_90840/

Mailux
http://www.mailux.com/mm_dsp.php?mm_id=MM3FAB47D02D533

まぐまぐ
http://www.mag2.com/m/0000270330.html

のシステムを利用して発行させて戴いています。

また独自配信も開始しております。
http://xqo.ooh.jp/mag/d-send.html

ご意見ご質問等は上掲メール宛、若しくはサイト内
設置メールフォームよりよろしくお願い致します。
http://xqo.ooh.jp/mag/form/

バックナンバーはサイト内及び各配信スタンドにて
公開しております。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
back   配信済top   次回配信分