仇花の記憶〜ごく私的なやおい歴史記録〜

増刊第四回  ショタコンに見る二次元と現実(一)
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ごきげんよう。葡萄瓜でございます。
発行が立て続けになりまして恐れ入ります。何卒ご容
赦の上お付き合い下さいませ。

さて、まんが同人誌にも増してややおいにも縁の無い
堅気の方々が一度この世界の専門用語を調べるとなる
と一冊の事典の存在抜きに話を進める事ができません。
自由国民社から毎年刊行されている『現代用語の基礎
知識』(以下『現基』)がそれでございます。追従し
て幾つか似た体裁の事典が毎年数点刊行されておりま
すが、現行の言葉を調べるならばまず『現基』を見よ
と言うのはネット時代になっても然程変わらぬ様です。
検索エンジンが発達したとは言え。
ですが、こう言う事典には一つ欠点があります。事典
と言う体裁に捉われる余り執筆者に偏りが出来、その
影響で現実に無い言葉の解釈が事典上に発生すると言
う事です。殊にサブカルチャー用語と言われる一群に。
やおいもその余波は免れ得ません。増してやショタコ
ンの解釈に於いては。そこからお話を始めたいと思い
ます。

さて、現基にショタコンが用語として登場しますのは
91年の事。やおいの項にやおいの成立要因の一つとし
て登場しました。(少年趣味)と言う傍注付で。
そもそもショタコンと言う言葉の発祥は溯って81年、
アニメ情報誌『ふぁんろーど』(※1)誌上に於いて
ロリコン(※2)の対極にある言葉として『鉄人28号』
の金田正太郎少年(※3)を語源として考案され発表
されたもの、と言うのが定説であります。
と、申しますか後日きちんと確認されているのですね。
この説が正しいと(※4)。
実際、現基に於いてもこの説はちゃんと採用されてい
たのです。97年版にショタコンが独立項目化された際
もこの説は採用されていましたし(※5)、98年版も
ちゃんと踏襲説明されていました。
問題は99年版と00年版です。
99年版に於いて新たに発掘され、正太郎説よりも前に
あったと説明された説が登場します。
即ち『ショートアイズ・コンプレックス』説です。

この『ショートアイズ・コンプレックス』説、古くか
らある言葉と言う説明にも拘らず99年版の現基上では
語源についての出典は出ず終いでした。
00年版の現基に於いて初めて『ショートアイズ』とは
『両目の(間隔の)近い子供を指す俗語』と説明が為
されましたが、凡その英和辞典には斯様な言葉は掲載
されておりません。ネット上の辞典を調べて見た所で
『子供に対する性犯罪者』と些か趣の違う訳が出てく
るばかり。
そこで改めて『ShortEyes』と言う言葉を調べました
所…ありました。75年にアメリカで発表された戯曲だ
ったのです(77年には映画化)。日本でも80年に文学
座によって初演されていました。(※6)
その内容は刑務所内での生活を描いたもの。そして
『ShortEyes』とは刑務所内隠語で『子供相手の痴漢』
『児童暴行犯』を指す言葉との事。
そう言う出自の言葉をどうやってアニメやコミックの
世界に持ち込むと言うのでしょうか。
因みにこのショートアイズ説、この2年間に登場したの
みでふっつりと姿を消します。又、その2年間やおいの
項目に構成要素として説明されていたのは正太郎説のシ
ョタコンである事もここに明記致します。一冊の事典
の中に2つの説明があり、新規の説明で元からある説明
を否定に掛かりながら元からある説明もちゃっかり使っ
ていた、と言う訳です。01〜02年版の現基に於いては
独立項目のショタコンは消え、やおいの構成要素に退き
ます。そして03年版に於いては独立項目のやおいすら
も消えているのです。

この混乱をどう説明するべきか。
無理矢理に説明するならば、本来二次元を対象にして
発生したショタコンと言う言葉を現実にも対応する言
葉にしようとした(知識人と称する方々の)苦労の余
波では無いかと思うのですね。
ロリコンと言う言葉はちゃんと学術用語としてあった
言葉の省略形だから普段使うのに何ら問題は無い。で
もショタコンはサブカルチャーからでた言葉だし…と
言う詰らない見栄を張った末、抔とは考えたく無いで
すけどね。
兎に角も、ショタコン=金田正太郎語源と覚えて置い
て下さった方が無難です。
この題材の下での増刊号は断続的に続けさせて戴く予
定です。此度は此れまで。続きは未定です。

では、31日の本編第二回配信で又お目汚しをさせて戴
きたく存じます。

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※1
ラポート社刊。同社刊行アニメ情報誌「アニメック」
の姉妹誌として80.8.25創刊されたアニメ・コミック
中心の情報誌。現在誌名は片仮名であるとの事。当該
の号は5月号。

※2
ロリータ・コンプレックスの省略形。ウラジミール=
ナボコフ(1899-1977)著の小説「Lolita」作中に於い
て表現される心理状態。年下の少女しか愛せないと言
う心理状態と言う説明が一般的に為される。なお、作
中に於いて心理状態には言及されていたが性的描写に
ついての描写は(少なくとも筆者の読んだ記憶の中で
は)無い。
この省略形はコミック分類の一種として発祥したと思
われる。

※3
原作:横山光輝のSF活劇漫画。56年初出。
60年には実写化。63〜65年にはアニメ化(白黒版)。
80〜81年にかけてはアレンジリメイクアニメ版が登場。
金田正太郎少年は巨大ロボット・鉄人28号の操縦者で
あり、半ズボンが似合う少年の代名詞となっていたら
しい。
なお、語源のイメージは原作及び白黒アニメ版であっ
たと言うのは当時の関係者証言(※4参照)。
80年版(『太陽の使者』版とも言われる)を想定した
と言う説は年代的な帳尻合わせからであろうか?

※4
「国際おたく大学」(岡田斗司夫・編/光文社/98.7.30
初版)『ショタの研究』担当:渡辺由美子の傍注2を参
照。当時のアニメック編集長とふぁんろーど編集長の
会話の中で生まれた言葉と言う事が確認されている。
なお、その際両氏がイメージしたのは当時放映されて
いたリメイクアレンジ版ではなかったとの事(※3参照)。

※5
但し、その細部説明に於いては誤解があった事も確かで
ある。
ロリータ・コンプレックスの性を入れ替えた説明は凡そ
正しいにしても、当時の同人誌即売会に集う女性の年代
について悪意のある表現が見られると言うのは公の出版
物として問題があると思う。

※6
『Short Eyes』(Miguel Pinero,Marvin F.Camillo著/1975)
邦訳出版物は無い模様。文学座の上演情報を見た方が良い
かも。

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仇花の記憶〜ごく私的なやおい歴史記録〜
増刊第四回  2003.5.27発行

文責:葡萄瓜XQO
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