サイキック・トリック   葡萄瓜XQO



 「
 「んだよ」
 と、返事をするとそれが秀の寝言だと言う事に
気付き、秀の首を思いきり締めたい衝動に駆られ
る。風呂上りにそのままベッドに倒れこんだから
バスタオルの様な小道具にも事欠かない。あ、濡
れタオルを顔にぺったりも良いかな。
 腰、思いきりダリぃ。ま、ダリィだけだから良
いかもね。今日は最後までやってないし。
 オレ、男相手にナニやってんだろ。それも普通
の男じゃなくて、オレ等のアイドル様相手に。
 
 オレ、は一応秀の幼馴染。お袋同士が
公園デビューした時からの仲らしんだよな。それ
がきっかけで親父同士も巻き込まれ、まあ一家ぐ
るみのお付き合いって奴?をやってる。
 今のオレ等を知ってる奴には信じらんないみた
いだけど、小学生の時まではアイドルの座はオレ
が握ってたの。秀は友達で同時に下僕。蹴る殴る
なんてやんなかったけどおねだりは結構したよな。
 女の子の代わりも、やって貰ったり、ね。
 で、それが逆転したのは中学ン時。春休みの間
に秀の背、思い切り伸びてやがんの。背が伸びる
と同時に顔のバランスも良い感じになってきてた
し。
 で、思ったのね。アイドル交代、って。
 オレの取り柄っつったら精々女顔だけだけど、
秀って文武両道な人なんよ。それにタッパと顔が
加わったらもう無敵じゃん?オレだって引き際判
んない馬鹿じゃないし。
 で、アイドル交代のついでにこっちの役割も交
代しようかな、なんて殊勝な事思って、迫ってみ
たの。

 『ちゃんが命令するなら最後までやるよ?』
 余りにご無体な秀のお返事。 おーい、オレに
まだ命令する人やれっての?

 「僕はちゃんのお嫁さんになるって
決めてたし」
 「秀、お前、自分が男って判ってる?」
 「判ってるよ。ちゃんの裸で勃ってたり
するし」
 あっけらかんと飄々と言うな!アホ!!と悪態
ついたついでにしっかりとモノの確認。……こっ
ちでも追い越されてるな。
 「ちゃん、僕の体に飽きた?」
 「んなことねーよ」
 タッパが伸びてからもこいつの体は綺麗なんだ
よな。今更言うけどこいつと最後まではやってな
いよ、オレ。弄って出すまではやってるけどそこ
まで。最期までやってしまいたいと思った瞬間は
あるけど、男同士だからって思い止まった、つも
り…だったんだけど。後から秀の手を思い出しな
がら自分で弄ってるんだから最後までやりたいの
かもね、オレ。
 「秀ぅ」
 「何?ちゃん」
 「オレなんかの何処がいいのよ?」
 「全部!」
 断言かよ!
 「最初に好きになったのがちゃんだった
からかも知んないけどさ」
 「今からでも女の子相手に更正すれば?」
 「ちゃんもそうする?」
 「秀がそうするんならな」
 なんてね。
 あっさり笑って言ったつもりなんだけどなー…
このぼやけた視界はどうしたってんだ?唇になんか
生あったかい塩水がかかってるみたいだけど、これ
オレの涙?うわー、オレって無茶苦茶女々しい奴
だったんだ?恥くせー。
 ぺしぺし。
 何時の今にかオレの体をぐるりと囲んで背中に
回ってた秀の手が俺の背を軽く叩く。あ、これっ
ていつものポンポンか。安心さしてくれる時の。
 「ちゃんはいつから嘘吐きになった
のかなー」
 「おまえのせーだ」
 「かもね」
 「責任取れよ」
 「責任とるのはちゃん」
 「オレの嫁ってそんなに良い位置な訳?」
 「僕にとってはね」
 秀の体温を感じながら、このままで居れたらな
と思う。生産的じゃないのは判ってるけどこいつ
と一緒にいたら安心するしさ。
 こいつの前で、大人にも男にもなりたくはなか
ったんだよ、な。

 …と、柄にも無くシリアスに考え込んでるのに
こいつは何で体を余計押し付けて来るんだよ!
暑苦しいわ堅いのは当たるわ指先は変な所に誘導
されるわ。こっちまで反応してしまうじゃんか。
 「心の準備したいんだけど、ダメ?」
 「だぁめ。僕はもう準備万端だもの」
 「我儘な奴だな」
 「どっちが?ちゃんが僕を待たせ過ぎなの!」
 笑いながら放り投げてきやがったのは。
 「……秀、準備良過ぎ」
 「体力維持対策もしっかりしてるんだよね」
 にゃろう……ここまでお膳立てして思いを遂げ
る気かよ。
 そして、ふっと胸が温かくなる。こいつを好き
になったというのは、オレの中で一番のヒットだ
ったなと。こいつに幼稚園の時「お嫁さんになっ
て!」と抱きついたのは正解だったかもしんない。
幸か不幸かは別にして。
 
 「秀」
 「ちゃん…」
 二人の唇は重なって、そして…。
                   (FIN)                    2004.8.19

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