仇花の記憶〜ごく私的なやおい歴史記録〜

本編第三回  Yとの遭遇・主将の衝撃

ごきげんよう。葡萄瓜でございます。

さて、耽美との衝撃的な対面を果たした後に、
私はやおいと遭遇する事になります。
当時同人界で巻き起こっていたと言う、伝説と
なってしまった第一次キャプテン翼ブーム(※1)
の煽りで。

あれは耽美との出会いの後の受験からの帰路途
上、大阪梅田旧阪急FIVE(現HepFIVE)(※2)
5階に在った駸々堂(※3)での出来事でありま
した。
当時、駸々堂の同人誌本棚は店の中央部の奥ま
った所にございました。店内に入れ子状態で存
在していた喫茶店の壁の裏手でございますね。
それまでも私は一応駸々堂と言う本屋を利用し
た事はございました。が、それはあくまでも紀
伊国屋書店(※4)や旭屋書店(※5)と同じく
『大型書店』と言う認識下での話。コミック専
門増してや同人誌まで…と言う認識を持つ様に
なるのは実はやおいを知った後の話だったので
す。
何でその時同人誌を、しかもキャプテン翼もの
を手に取ったのだったか…恐らくそれは、母校
の漫研所属の人達がキャプテン翼を題材にした
『作品』を描いていたので、『他の人達はどん
なものを描いているのだろうか?』と言う好奇
心が涌いての事だったのだと思うのです。
読み進めて行く内に何となく涌き出る気恥ずか
しい思い。手に取ったのが(今でこそ判ります
が)キャプテン翼ジャンル(※6)内でも濃厚な
東邦学園もの(※7)、またその中でも更に濃厚
な小次郎総受(※8)もの…。作者名は覚えてい
なくともシャワールームで小次郎が若島津と絡
んだ後に半ば気を失ったまま反町に蹂躙される
と言う衝撃的なシーンは覚えています。
色々な意味で衝撃でしたね。性別・年齢・設定
・技巧面…余りにも大きいカルチャーショック
でした。
只幸いにも(本当に今にして思えば幸いにもと
言うべきですが)衝撃は有っても嫌悪感は無か
ったのです。寧ろ好奇心がどんどん涌いて参り
まして(苦笑)結局以降梅田に出る度の駸々堂
詣はほぼ習慣化したと言う訳です。其の年の四
月以降四年間の通学が梅田経由になったと言う
のも相当意地の悪い何方かの思し召しだったの
でしょう。
そこで私は色々な同人誌を拝見し、その世界の
広がりについて感心する事になるのですが…。
次回は一旦同人誌の現場から離れ、同人誌の世
界と商業出版がシンクロする場誕生のきっかけ
となった同人誌アンソロジーの発祥の頃を少し
振り返っておきたいと思います。然様、お題は
『Aの発祥』です。
では、その時まで。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

※1
その当時前後(80年代前半以降)ブレイクした
『キャプテン翼』を取り囲む読者によるブーム
を指す。
その当時のブームはあくまでも読者(後にアニ
メ視聴者も合流)及び同人誌製作者側から起こ
ったブームであって後日Jリーグを絡められた
「作られたブーム」ではなかった。
その後『J』『2002』放映前後にブームはあっ
た様であるが、この第1次の時よりは大人しい
波であったらしい。

※2
大阪梅田に存在する71年開業の若者向け総合
ショッピングセンター。98年に現形態にリニ
ューアルした。

※3
京都を中心に展開していたチェーン書店。
00年1月、自己破産。
近畿のやおい及び同人誌の世界にとっては同
人誌販売委託先・コミック多数取り揃え・や
おい関連品揃え豊富など馴染みの深い書店で
あった。出版も手がけていた。

※4
27年創業の全国レベルのチェーン書店。本社
:東京。
大阪梅田にも大店舗あり。コミック専門・音
楽関係専門別店舗も存在する。

※5
大阪に本店を持つ全国展開のチェーン書店。
商業誌の品揃えは良いが同人誌の扱いはして
いない様子。

※6
通例ジャンルと言うと『分野』と邦訳される
が同人誌の世界でこの語が用いられる場合は
『グループ分け』若しくは『派閥』をイメー
ジした方が良い。
やおいを含むパロディ同人誌の世界では1つの
作品を基軸として作品展開をするグループを
総称して『ジャンル』と呼ぶ。近年はその中
でも更に好みによって分類される『小ジャン
ル』とも言うべきグループが多数存在する模様。

※7
これは『キャプテン翼』の設定より派生した
区分けである。
作品中に登場するサッカー選手達は本来小学
生であったり中学生であったりする訳だから、
当然日常はそれぞれ学校に通っている。
チームメイト=同じ学校の生徒であると言う
図式が成立し、学校毎による小グループの中
で物語を展開すると言うパターンが成立する
訳だ。
東邦学園と言うのは主人公のライバルである
日向小次郎が中学生以降通っていたと設定さ
れている寮在りの私学。
寮住まい=部屋を確保=部屋の中では自由行
動…と言う図式があった訳でも無いだろうが、
東邦学園中等部寮は比較的やおい展開の舞台
になる事が多かった。

※8
日向小次郎のキャラクター設定は同世代の選
手に比べると大人びた複雑な性格だった様だ。
サッカーの展開にしても非常に男性的であっ
た。其の為、当初は彼を攻に、コンビを組む
ゴールキーパーの若島津健を受にすると言う
設定が多かったらしい。
が、混沌期故の悪戯か日向小次郎を受に設定
した所物語の展開が広がり、その後主流にな
って行った様だ。
これは日常とやおい展開とのギャップより生
ずる一種の色香が作用したものであろう。受
を自分好みに調教すると言う倒錯的な愉しみ
も生じたのかも知れない。
『総受』とは特定のキャラクターのみを受に
設定し、攻手を変えて様々な関係のヴァリエ
ーションを展開する一種シミュレーション的
なもの。受に特定のパートナーが設定されて
いる事もあるし、関係の展開のみを愉しむと
言う作品展開もある。

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仇花の記憶〜ごく私的なやおい歴史記録〜
本編第三回  2003.6.15発行

文責:葡萄瓜XQO
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mail:xqo_gm@yahoo.co.jp

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