仇花の記憶〜ごく私的なやおい歴史記録〜

本編第四回  Aの発祥

ごきげんよう。葡萄瓜でございます。

同人誌界で巻き起こったキャプテン翼ブー
ムは、出版界にも影響を与える事になりま
す。
その存在感故に今や本末転倒してやおい同
人誌界の中心と思われかねない存在、同人
誌アンソロジー(※1)の誕生を促したの
です。

多分それまでも同じ内容のものは同人誌の
世界で出ていたと思うのです。『合同誌』
『作品集』という名目で。
でもそれはあくまでも同人誌としての流通
範囲内の事。ごく局地的な流行の結晶とし
ての認識しかなかったでしょう。
それが商業的な出版物となって世に出て成
功した最初は恐らく『つばさ百貨店 別冊
COMICBOX1』(87.1.24初版/ふゅーじょん
ぷろだくと【※2】刊)でありましょう。
但しそれとてアンソロジーの名乗りは最初
から挙げておらず、やおい同人誌即売会現
場の熱気を伝える一種のカタログ的なもの
として存在していた訳ですが。
そして同人誌界ではキャプテン翼ブームと
平行して聖闘士星矢(※3)ブームも又起こ
っていた模様。そちらの『アンソロジー』
も又ふゅーじょんぷろだくとによって編ま
れる事となります。この事業については当
初はふゅーじょんぷろだくとの独占状態に
在ったのです。
ですが当時のノリとしては『現場の熱さを
伝える為』の一種のレジュメであり、即売
会に備えての見本帳的なノリだったのでは
あるまいか、と回想します。
寧ろ合同誌を商業ベースで出しちゃった、
的なノリだったのではないでしょうか。
因みに初期のふゅーじょんぷろだくと刊の
このシリーズは現在のアンソロジーの基本
サイズ(A5版)よりは横幅が22o程少なく、
又カバーも付いていない雑誌形態であった
事を申し添えておきます。

さて、アンソロジーという名称がが世に出
たのは何時か。
それはふゅーじょんぷろだくと刊行のキャ
プテン翼同人誌再録シリーズ第二弾『つば
さ五段活用』(87年7月)が恐らく嚆矢でし
ょう。この本の表紙に初めて『同人誌傑作
アンソロジー』の標記が入っていたのが最
初の様です。(※4)
同年8月に聖闘士星矢同人アンソロジー第一
弾『星矢に夢中』(※5)、続く9月に『星矢
危機一髪(あぶないせいや)!』発行。この
出版過程に於いて現在のアンソロジーの内
容的な雛型は8割方出来上がったものと考え
られます。
そして88年4月20日、青磁ビブロス【現ビブ
ロス】[※6]から『メイドイン星矢 星矢同
人アンソロジー』が発行されました。
ここにおいてアンソロジー出版初期の立役
者2社の揃い踏み、という訳です。この本の
存在は同人誌再録集=アンソロジーを出版
する事によって出版社の経営が成り立つ事
を証明した最初の事例であります。
何故なら出版社青磁ビブロスの第一歩は正
しくこの本と同時に刻まれた訳ですし、ア
ンソロジーの隆盛と共に青磁ビブロスは成
長したのですから。

青磁ビブロスが8割方完成していた同人誌ア
ンソロジーの雛形を完成させたと言っても
良いでしょう。
A5版サイズへの固定・カバーを付けて雑誌
的なものから書籍的なものへと格上げ・シ
リーズとしての通しタイトル付記。現在流
通しているアンソロジーの構成要素はここ
で出揃ったのです。
ふゅーじょんぷろだくとが生み出し育て、
青磁ビブロスが形を整えたこの出版形態が
やおいのみならず同人誌の世界に微妙な、
そして小さくない影響を与える様になるの
は又少し後の話。
当時はそのアンソロジーから様々な展開が
生まれる事なぞ多分誰も想像し得ず、やお
いを含む男子同性愛描写同人の拠所は相変
わらずJUNEだった(※7)、そんな時代です。
ここで時間経過が年単位であれば成程回想
録らしくもなると思うのですが、現実的に
はほぼ月単位で目まぐるしい変化が起きて
ゆきました。
流行は移ろい易きもの。そして流行と共に
やおいの世界は発展して行ったのです。

では、今回はこれにて。
本編次回のお題は『垣根は低く又薄くなり』
を予定しております。
では、その時まで。

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※1
anthology.
ギリシャ語から転用。詞花集の本義から転じて
現在二次創作同人作品のオムニバス作品集を指
す言葉として定着しつつある。
長く商業出版中心で使われて居た様であるが、
近年では同人誌界に於いてもアンソロジー形式
の出版が増えている。
「アンソロ」と省略形で呼ばれる事もあり。

※2
ラポート社刊行漫画評論誌『ふゅーじょんぷろ
だくと』の編集部を前身とする出版社。
サイト上にある梗概によると会社として設立さ
れたのは82年7月との事。が、実質始動したのは
同年4月であるらしい。
また同じく同社梗概によると同社による同人誌
アンソロジーの発行開始は85年5月との事である。
『つばさ五段活用』折込同社広告によると『美
少女症候群』なるシリーズ同人誌再録集(全5巻)
が出ていたとの事。この事を指すのであろう。
アンソロジー出版がきっかけで後年同人誌情報誌
『ComicBoxJr.』が誕生した(91年9月)。

※3
少年ジャンプに掲載されていた車田正美原作の拳闘
SF。86年10月から89年4月に掛けてアニメ化放映。
映画化もされ本稿脱稿現在続編が製作・販売されて
いる。
ギリシャ神話・北欧神話、並びに星座の伝説と登場
人物の厚き友情をアレンジした世界観に魅せられる
人はいまだ後を断たず。
キャプテン翼同様多様な組み合わせが楽しまれつつ
同人世界が構築されていった。
又アニメ化作品の方に魅せられて同人に参入という
パターンが生まれたきっかけもこの作品なのでは?
という憶測が生まれる程原作とアニメ作品の絵柄が
違う作品でもあった。

※4
本体で確認した訳ではなく、折り込み広告と発行頻
度からの推定。

※5
『つばさ五段活用』に折込のふゅーじょんぷろだく
と社広告によると『つばさ百貨店』と同誌との合間
に『セーラー服少女伝説』なる再録集が出ていたと
の事。その表紙に『同人誌傑作アンソロジー』の標
記があるや否やは本稿脱稿現在不明。

※6
88年3月設立。同人誌アンソロジーシリーズ『Fresh
Packs』で力を蓄え、やおい世界の一角を担うまでに
成長した出版社。『メイドイン星矢』は『FreshPacks』
のトップバッター。
因みに同社がキャプテン翼のアンソロジーを編み始
めたのは同年7月に入ってから。

※7
ここで指されているJUNEとはあくまで本誌(通称:
大JUNE)の事である。
同じ版元の『さぶ』からの再録中心に編まれた増刊
『ロマンJUNE』が発行されたのは88年10月。
大JUNE86年5月号の特集に「激情美少年動画マル美
情報」等とあり、同誌名物竹宮惠子女史の『お絵描
き教室』のお題にもキャプテン翼が登場。
時代を感じさせる。

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仇花の記憶〜ごく私的なやおい歴史記録〜
本編第四回  2003.6.30発行

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