仇花の記憶〜ごく私的なやおい歴史記録〜

本編第九回  揃い踏み前夜
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

ごきげんよう。葡萄瓜でございます。
急ぎ足に秋の気配が訪れた様でございますがお
風邪など召しておられませぬでしょうか。
それでは頼りない記憶を何とか紡いでみる事に
致します。

93年にビブロス社(当時青磁ビブロス)から
『マガジンBE×BOY』が創刊されて順調に業績
を伸ばした以外、やおい世界の雑誌と言うのは
見事に低調でございました。
新しい雑誌には事欠いては居ないものの、定着
するという事はなく、掲載作品もどうも大人し
め…刺激を求める向きが多くなったとしても不
思議は無いという状況でした。
その時期でございますね。ひかり出版から『ブ
レス』という雑誌が創刊されましたのは。(※1)
これは当時としては非常に刺激的な内容であっ
たと思います。何しろ同人誌アンソロジーで久
しく自粛されていた性表現を(修正があるとは
言え)大胆に描いていた作品が多く収録され、
又雑誌自体の煽り文句も『Homo Porno Comic
For Girls』(※2)という恐ろしく即物的なも
の。何とも言えないオーラを当時は感じたもの
でございます。
そして翌年には光彩書房から『manga純一』が
創刊。(※3)これ又『ブレス』の一種泥臭い
持ち味から脱した作風尚且つ即物的な内容の作
品揃いで、「こうまでしないと雑誌は売れない
のか」と唖然としたものでございます。
その勢いを借りて、でございましょうか。現在
ではショタコン(※4)の中でもロリショタ(※5)
誘引の原因になった様な扱いをされているアン
ソロジー形態雑誌『ジャニー』もこの年に本格
的ゲイ向けコミック雑誌として光彩書房より創
刊されております。が、この目論見は敢え無く
潰え、『ジャニー』は第3号以降アンソロジー形
態の「美少年コミック」誌と様変わりする事に
なり、また一つの時代を築くのです。その辺り
はショタコン雑誌・アンソロジーの諸相と絡め
号を改めて書かせて戴きます。
尚、余談ではありますが。
『ブレス』『manga純一』『ジャニー』3誌の読
者投稿欄には意外にも共通点があったように思
われます。同性愛行為のその当事者からの投稿
が受け入れられ、一種反目状態にあったとされ
ている筈のやおい雑誌読者と彼等との交流が余
りにも穏やかに進行していた、という点です。
今日も残る一種ゲイフォビア的な風潮から考え
ると俄かには信じられない事ですが。
さて、B5版の雑誌で言えば竹書房から『麗人』
が創刊されております。(※6)作風としては
大胆かつ耽美的な、JUNEの世界を性的に強化し
た作品が多かった様に記憶しております。
此処までで既に役者はほぼ出尽くした感がござ
いますね。マガジンマガジン(サン出版:JUNE
の版元)から『BOY'Sピアス』が創刊されたのは
ここまで役者が出揃い、土台が整ったその後と
言うべき時期でございます。(※7)
この辺りからやおいと平行してボーイズラブ、
BLと称される作品の一群が出現した様ですね。
やおいから発展した作品群が肉弾戦描写を中心
にして心理描写を従の位置に置いたのに対し、
耽美/JUNEから分派したBLは心理描写を基本に
した精神的な繋がりを描こうとしたジャンルで
あると考えられます。(※8)
又、この時期の面白い試みとして『やおい文芸
誌』とも言うべき雑誌もまた創刊されました。
ミリオン出版刊行『DEEP』です。(※9)
地味な動きではありましたが、非常に骨太の作
品を収録し、今に通じる提言も散見されました。

さて、このまま続けてBLについての記憶を掘り
起こしてみるも一興ではございますが、この雑
誌揃い踏みと平行して起こったショタコンの波
についても書き記しておく必要がございますの
で、この続きは又稿を改めさせて戴きたく存じ
ます。

尚今回、本編を変則的に2回分同日時間差にて
配信させて戴きます。
では又後程『ショタコンブーム、到来』にて
お目にかかりとうございます。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

※1
94.5.30創刊

※2
創刊号では『女の子のためのホモポルノコミッ
ク』となっている。

※3
95.8.25創刊
創刊準備号が同年6月に発行されている。

※4
増刊第四回〜第六回辺りを参照して戴けると有
り難い。主に少年を受身(女役)に設定した男
子同性愛漫画のバリエーションの一。

※5
ショタコン描写の中でも受身の少年が男子であ
る必然を感じさせない様な容姿行動を有するも
のを指して言う。又、外見からして年齢不詳で
少年と言い張っても通用する受身に対してもこ
の形容を用いる事がある。

※6
95.9.9創刊

*『ジャニー』の創刊日詳細については確認出
来ず。
第二号が95年12月発行となっているので『麗人』
創刊と前後かと思われる。 

※7
97.3.1創刊

※8
但し近年に於いてはBLといわれるもののやお
い帰り的な傾向が散見される。
最終的なゴールは『結ばれる』事に如かずと
言う事だろうか。

※9
93.9.10創刊。季刊。VOL.5で休刊となった。
野阿梓・柾五郎等がやおいに参戦した雑誌で
もある。

=======================
仇花の記憶〜ごく私的なやおい歴史記録〜
本編第九回  2003.9.30発行

文責:葡萄瓜XQO
website:『仇花の記憶』
http://kamakura.cool.ne.jp/xqo/
mail:xqo_gm@yahoo.co.jp

このメールマガジンは
melma! 
http://bbs.melma.com/cgi-bin/forum/m00090840/
Pubzine 
http://www.pubzine.com/detail.asp?id=22755
メルマガ天国 
http://melten.com/m/14637.html
のシステムを利用して発行させて戴いています。

ご意見ご質問等はmelma!内BBS
http://bbs.melma.com/cgi-bin/forum/m00090840/
他WebサイトBBS等にて承ります。

バックナンバーはサイト内にて公開しております。
再配信ご希望の場合はお手数ですがメール若しくは
BBSにてご用命戴ければ幸いです。
========================

過去配信済へ   配信済top   次回配信分