仇花の記憶〜ごく私的なやおい歴史記録〜

本編第十回  ショタコンブーム、到来
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ごきげんよう。葡萄瓜でございます。
変則的に同日配信を増やし恐れ入ります。
それでは頼りない記憶を何とか紡いでみる事に
致します。

第九回に於いて光彩書房刊行の『ジャニー』が
ショタコンブームに火をつけた、様な事を少し
文中で匂わせたかと思います。しかしながらそ
こに至るまでの下地は一応ございました。此処
で改めて提示します。そもそもショタコン作品
ブームとは誰が先導になって盛んにしたものか。

ショタコンと言う言葉がやおいの世界で使われ
だした、と確認できる最古の資料は『現代用語
の基礎知識』(自由国民社:刊)91年版に於い
てです。此処ではやおいの構成要素としてショ
タコン=半ズボン趣味と簡潔に記述されており
ます。が、そもそもこの言葉は元を正せばアニ
メ情報誌『ふぁんろーど』81年5月号に於いて
間に合わせに作られたロリコン(※1)の対語
的なものであり、尚且つその後の同誌に於いて
の特集(82年1月号及び84年1月号掲載)中では
『二次元三次元分け隔てなく(主に)半ズボン
の似合うやんちゃな男の子』を愛でる趣味とし
て定義されていたものです。又語源についても
『鉄人28号の金田正太郎少年』と言う所は間違
い無いのですが、それが本来どの『鉄人28号』
の金田正太郎少年からインスピレーションを得
た言葉であるのかは不明です。(※2)
その言葉が時代を経て同人誌用語として使われ
る様になった傍証が先述の『現代用語の基礎知
識』91年版。そして公にショタコンと言う言葉
が商業誌に出現する兆しとなったのが『b-BOY
vol.17 特集ショタコン』(青磁ビブロス/94.
10.15初版)でした。ふぁんろーど誌で提唱さ
れた語義のやおい的解釈の結晶、というべきで
しょうか。美少女漫画陣営からも美少年描きの
人々が参入されていましたが、やおい読みの目
からみるとどうも少し色合いが違うと思ったの
が記憶に残っています。彼等が描いたのは少年
によるやおいではなく、男性器を持った少女の
性だったのでしょう。その違和感は、ショタの
波の中で浮いては消え浮いては消えつつ細々と
今日も漂っております。
そして、この特集が弾みになったのかどうかは
判りませんが初めてのショタコンコミック雑誌
と言うべきものが誕生します。
エイコー出版刊行の『TIP TAP』がそれです(※3)。
厳密に言えば商業誌とは言い難い(母体の曳航
社は多く同人誌出版を引き受けていた印刷会社)
のですが、やおいの文脈の中でのショタコン専
門誌としては本当に初めてのものでした。そし
て、それ以外の文脈で語られるショタコンとい
う分野が確認されない以上、これが初めての専
門誌であると言う事になります。(※4)
このシリーズは3冊という短命ではありましたが、
ショタコン作品と言うものがアンソロジーを作
成できるだけの力を持つ、という証明をしました。
やおいの文脈上から生まれたものですからやお
いと同じく物語展開上に性的部分を持ち込むと
言うのはごく自然なものであったとは思います。
が、再読すると多くの作品に共通する欠落要素
があったと認識せざるを得ません。
少年も男ならば少年を抱く存在もまた男。その
事に対する葛藤を抱く作品が少なくなって来た
様に思えたのは筆者のやおい人としての感受性
が鈍った所為でしょうか?

『TIP TAP』が創刊された同年末にはひかり出版
から『ブレスSpecial 特集ロリショタ』が発行
されています。(※5)言葉は作られてゆくも
の、という良い傍証になりましょう。
そして、男性作家は男性作家で別にショタ専門
誌に集う事になります。茜新社『U.C.BOYS』が
それに当たります。(※6)
美少女漫画を描いていた男性が描くのですから
展開法がそちらのやり方になるのは致し方あり
ません。ですが、寧ろこのシリーズに収録され
た作品群の方がやおい系ショタ作品集に潜り込
んだ男性作家の作品よりもより男の子らしいシ
ョタになったと言うのは皮肉な話だと思えます。
そして翌年には光彩書房刊行のシリーズアンソ
ロジーが二点参入しました。リニューアルして
「美少年コミック誌」となった『ジャニー』
(※7)とショタコンアンソロジーとして方向
付けられた『ROMEO』(※8)です。
あくまでも方向性が違う、とされた筈の両誌で
ありましたが、実質的には健全指向を『ROMEO』
に、非健全嗜好を『ジャニー』に割り振ってい
た雰囲気があります。そしてその目論見は実際
当たったのでは無いかと思います。少なくとも
やおい的なショタの範疇では。
此処で一旦稿を区切らせて戴きます。恐らく此
処までがショタコンブームの到来から隆盛まで
の道程でしょうから。
次回にてショタコンブームの繚乱、そして停滞
に付いて資料と共に見て参りたいと思っており
ます。それまで暫しのお別れでございます。

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※1
ロリータコンプレックスを同人誌世界での転用
語にしたもの。
本義とは随分違う形に進化している語の様だ。

※2
増刊第二回傍注4参照。
しかしながらファンロード誌上の2回の特集に
於いては『新・鉄人28号』(太陽の使者版と
も言われる)の金田正太郎少年の説明に『シ
ョタコン語源云々』と説明書きがなされてい
るのだ。

※3
95.4.25初版創刊

※4
美少女漫画と言う分野はやおい隆盛以降はや
おいのエッセンスを吸収して地位を維持して
いたのでは無いかという私見を筆者は持って
いる。
美少女漫画に美少年陵辱が登場するのがやお
い隆盛移行の時期と重なる様であり、またや
おいの設定を持ち込んだ美少女漫画作品も散
見したと言う微かな記憶がある(例えば中総
ももの作品であるとか)。
『少年愛者』(谷口玲/つげ書房新社/03.2.
15初版)中に於いて寄稿者である真道寺軍が
この時期のショタブームを指して『ブームの
牽引者は多くの男性ファン』と言う論を述べ
ているが、現在残る書誌データの何処からそ
の様なデータが抽出できると言うのだろうか?
美少女業界の「ショタコン」使用例の初出が
確定できない以上、暫定的にではあっても
『ショタコンブームはやおいから分派』と考
えるべきではあるまいか。

※5
95.12.6初版

※6
95.12.30初版創刊。
『U.C.BOYS SECOND』97.1.25初版
成人コミック扱いなので留意の事。

※7
96.5.初版

※8
96.5.20初版創刊

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仇花の記憶〜ごく私的なやおい歴史記録〜
本編第十回  2003.9.30発行

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