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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第七回  声は密かに萌えを囁く 
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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
では、ゆるゆると雑談をさせて戴きましょう。

やおいショタのオーディオビジュアル媒体が割
に楽に手に入る様になった(愛好家にとっては
誠に)結構な世の中となって参りましたが、百
家争鳴は相変わらず、いや以前より盛んになっ
た様に思われます。
それはそうで御座いましょうね。この世界のオ
ーディオビジュアル化がかつて「JUNE」(註1)
が展開したカセットブックの独壇場であった頃、
他には聴き様がないから皆様貪り聞いていた事
でしょうし、そもそもがそう言う総合情報誌的
な位置にあるのは「JUNE」しかなかったのです
から。
但し貪り聴いた…と言っても反応としては誠に
純だった様で御座います。その反応の記録の好
例と致しましては中田雅喜女史の『ももいろ日
記』上下(ユック舎/批評社、1991.1.10初版)
収録の「こけーっこっこっこっ」と題する一挿
話に詳しかった、と記憶しています。上巻下巻
いずれに収録だったかは失念しております。す
みません。(註2)

 *書籍入手困難の見込みが大きいので敢えて
  文字にて挿話概略を申し上げますと…中田
   女史が業界筋からJUNEカセットを入手し、
   聞いている内に気恥ずかしさが極まって鶏
   の様に落ち着き無く部屋を走り回ってしま
   った(と文字にすると非常に味気ない描写
   でありますが)と言う事を中心とした展開
   であります。
   ↑いしかわじゅん氏の実験(註3)を地で
   やってしまった様な感じですね。

筆者が実際そう言うドラマを耳にしたのはそれ
より少々時代が下っての事、ビブロス社から出
たCDドラマ経由でございましたが…行為の部分
では耳が燃えるかと思いました。中田女史の心
情がしみじみと判ってしまった一瞬で御座いま
した。
聴いている側も気恥ずかしいもので御座います
が、演じられる方も相当に気恥ずかしかろうと
思われます。演者の気持ちに思いを馳せた言及
が『電脳やおい少女』第2巻(中島沙帆子/竹書
房/2003.11.17初版)中にありますね。
閑話休題。それまで心の中の妄想の産物でしか
なかった『萌え』が媒体となって入手出来る様
になったと言う事は、少なくとも一つの進化で
あったと思うのです。
少なくとも一つのイメージが提示される事によ
り、それを起点として更に妄想を補完し、より
一層自分の中に根付かせて自分だけの物語にし
てゆく…物語の味わい方もまた一味違ったもの
になったのでありましょう。
カセットに吹き込まれた物語は一応完結した世
界ではありましたが、同時により深い世界への
扉を開く鍵であったのではないか、と思うので
す。それから10年も経たずして今度はアニメー
ションの波が起こるとは誰も予想しなかった頃
の事でございます。
現在流通してるBLドラマ音源も、往時の様に心
に刻まれ膾炙され行く事を願って止みません。
萌えとは一瞬の作用であり、叉そこから何かが
始まる種なのです。それは、昔も今も変わらぬ
ものと信じておりますから。

では、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせ
て戴きます。次号まで、御機嫌宜しゅう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
註1
1978(昭和53)年、『コミックJUN』として創刊。
サン出版刊行。第3号より『JUNE』に誌名変更。
1979(昭和54)年一端休刊し1981(昭和56)年
復刊。以降耽美方面の総合誌として、またジャン
ルの代名詞になるまでの看板に成長した。
現在本誌は休刊扱い。兄弟誌である『コミック
JUNE』『小説JUNE』にその名残を留めている。

註2
なお、この挿話は廣済堂文庫で一冊に編集されて
再販(『純情ももいろ日記』1999.11.1初版)され
た際には割愛されている。時代性の故にであるか
どうかは定かではない。
なお、中田女史が聴いたのはJUNEカセットシリーズ
第1作目『鼓ヶ淵』(1988.11.30初販/三田菱子原作)
との事。当時の編集長から直接手渡されたと作中展
開から伺える。

註3
彼が自著『漫画の時間』(1995年11月30日/晶文社
→2000年10月10日/新潮OH!文庫)中に於いて同業?
のとり・みき氏作品の一部を文章に置き換えてその
伝達情報量の差を解説すると言う試みをした。
結果として臨場感は損なわれ、間合いも構成もヘッ
タクレも無い珍妙な文章が出来上がった。
※「仇花の記憶〜ごく私的なやおい歴史記録〜」
本編第十三回(2003.11.30発行)の本文及び傍注1
より引用。
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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第七回 2004.3.10発行

文責:葡萄瓜XQO
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