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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第十四回  虚驚実々
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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
では、ゆるゆると雑談をさせて戴きましょう。

さて、出版物に於いて俗に『告白もの』と言わ
れる分野が存在致します。初々しいものでは初
恋の告白集、果ては生々しいものなら初体験の
告白集又性体験の告白集を活字にしたり漫画に
したりしていると言う、アレです。
凡そは読者投稿を募って、出版社編集部が体裁
を整えて目出度く本にしてそれが又お好きな人
のお買い上げによって売れていく…と言うパタ
ーンなのですが、やおいが定着した辺りからで
すか、性体験の告白集の中にやおい(の一場面)
を絵に描いた様なシーンがごくたまに垣間見ら
れる事が御座います。(註1)
実際に有った事なのか、それとも普通の告白に
添えられた仇花であるのかは定かではありませ
ん。詮索するだけ野暮と言うものではありまし
ょう。
意外な事に思われるのでしょうが、やおいを絵
に描いた様な日常の告白がやおい雑誌の中でさ
れる事は読者欄を除いた記事では極々少ない感
じです。
手元の資料を見てみると「BOY'Sぴあす」(マガ
ジン・マガジン/97.8.5発行)に読者体験告白と
して絵物語仕立てにした記事が掲載されたとい
うのが御座いますね。後は一時期「BOY'Sピアス」
誌(マガジン・マガジン刊行/月刊/97.3.1創刊)
に連載されていた読者の体験投稿(註2)程度で
しょうか。後を思い返すに、所謂レディースコ
ミックの様に一冊丸ごと体験告白の様なやおい
雑誌は存在していない様な気が致します。何故
かと愚考しますに、体験告白の如き生々しい記
録は当の読者から敬遠されるのではなかろうか、
と。
やおいとはファンタジーと捉えられている部分
も御座いますし(その割にはリアリティも求め
られる厳しさが御座いますが)。
ゲイセクシュアル方面でも体験告白が記事にな
ると言う事は存外少ない様で、その手の記事と
して有名処を挙げよと言われれば、筆者は「さ
ぶ」(註3)誌の「月光仮面劇場」(挿画:林月
光【註4】)程度しか思い当たりません。後は投
稿欄で密やかに熱く展開されていたのではない
かと推測します。

でも、ふと思うのですね。やおいの様なドラマ
ティックな現実がすぐ隣にあったとして、自分
が果たしてそれに即座に順応できるのかどうか。
これは実際かなり難しい命題だと思います。
出来る事なら避けて命題でもありますから。
やおいが現実化するという事は、ただ舞台が三
次元に移るというだけでは済まないという認識
を(筆者は)一応持って居りますからね。
それでも、時間はゆっくりとですが、確実に動
いております。頑なな差別意識も徐々に理解に
よって解けている局面もあります。極一部の局
面ですけどね。
だからと言ってやおい的な現実を創造して良い
かと問われれば、筆者は即座に是とは言えない
でしょう。嫌悪故にではなく恐らくは戸惑い故
にです。
白状すれば筆者はその手の体験手記全般を読む
時は気を落ち着けつつページを捲っております。
読んでいる内にその場面場面を再現した妄想が
頭の中に溢れて、身動きが取れなくなるもので
すから(苦笑)これが創作に反映されるのでは
ないかと小賢しい計算をしている部分も御座い
ますし。

些か話が重くなりましたね。どうにも筆者の悪
い癖です。
やおいと現実とを区別しろ、と四角四面にいう
のも野暮な話なのだろうとは判っています。現
実にある事象から発した妄想を練り上げ、切り
取ったものがやおいなのですから。
あの耽美の牙城と目された「JUNE」(註5)でさ
え、市井の美少年写真が投稿されて品評されて
いましたし、アニメーションを題材にしたやお
いが定着する以前には、野球選手や海外ロック
スターを題材にした物語が展開されて居た(註6)
のですから。アメリカのスラッシュ(註7)も
「スター・トレック」のファンジンから発祥し
たと聞きますし。(註8)
妄想を超えてしまった現実を目の当たりにして、
二の句を告げる事が出来るか出来ないか…永遠
のテーマでしょうね。解決があるかどうかも皆
目見当がつきません。

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて
戴きます。次号まで、御機嫌宜しゅう。
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註1
体験告白出版物の一例として『りん太のももいろ
コミック』(エルティーン編集部/近代映画社/
1995〜2000年)を挙げておく。筆者の記憶ではシ
リーズ3巻に1話の割でやおい風設定の話が掲載さ
れていたように思う。

註2
体験告白といってもかなり脚色めいた部分があっ
たので、今にして思うと告白を装った創作と言う
可能性もあるのではないか?詮索する方が野暮だ
とは思うが。

註3
男子同性愛嗜好の人々の為の総合誌。
サン出版刊行/月刊/1974〜2001

註4
イラストレーター・画家の石原豪人氏が「さぶ」
誌で筆を振るう時に使用した筆名。
氏の描く洗練され、そして何処かバタ臭い美青年
画は人々の目を惹きつけた。石原氏は98年逝去。

註5
78年10月に『ComicJun』として創刊された作品発
表を基とした「少年愛」雑誌。79年2月発行第3号
にて『JUNE』と誌名変更。実在するJUNと言う洋品
店からクレームがあった為に『作家ジャン=ジュ
ネに倣い』と言う理由の下の改称だった模様。
以後一旦休刊するものの81年に復刊し、耽美方面
の情報誌・作品発表の場としての王座を守り続け
るも本誌は95年に休刊。小説専用誌『小説JUNE』
は継続。コミック専門誌『コミックJUNE』他JUNE
グループとも言える周辺誌が刊行されている。
版元は当初株式会社サン出版。後に系列の株式会
社マガジン・マガジンに移行。サン出版は男性向
同性愛雑誌『さぶ』の版元でもあった。其の関係
かどうか、『さぶ』からの再録作品を中心にした
増刊『ロマンJUNE』を88年から刊行。これが現在
の『ピアス』誌系統の源流になった模様。
又、同誌から『JUNE』と言う分野分けも成立して
いる。

註6
中島梓『マンガ青春記』(集英社文庫/1989年12月
初版)、及び栗本薫『ぼくらの気持ち』(講談社
文庫/1981年8月初版)を読んだ記憶に拠るもの。
「ぼくら〜」の方には親本出版往時(1979年前後)
のコミックマーケットの風景と思しき描写もある。

註7
slash.アメリカ版のやおいというべき二次創作。
語源はカップリングを表現する際に使う「/」記
号から由来とされる。やおいの隠語表現「掛け算
(×から由来)」と一脈通じる所がありそうだ。

註8
『DEEP』(ミリオン出版発行・大洋図書発売/季刊
/1993年9月〜1994年9月/5巻にて休刊)連載の小谷
真理著述エッセイ参照。1989年の段階では既にスラ
ッシュファンジン成立の情報が伝えられて居た模様。
古くは1970年代にまで発祥を遡る事が出来るとか。
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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第十四回 2004.5.20発行

文責:葡萄瓜XQO
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