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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第二巻弐拾七回  小説「にせものがたり・秋」
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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
月末の小説配信回。お楽しみ戴ければ幸いです。
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   にせものがたり・秋
              XQO

 父の部屋を整理していたら、引出の一隅から
の強い薫りに惹きつけられた。洒落っ気なぞ一
切無かった人なのに、一体如何言う風の吹き回
しかと薫りの出所を探してみれば、果たしてそ
れは一本の扇子だった。箱に収められて猶薫る
と言うのは余程物持ちが良い。おまけに箱書き
が認められていたので確かめてみると今から四
半世紀前、私と父が親子の縁を結んだ日付が記
されていた。
 扇骨に香木が使われていると思ったがそう言
う様子は無い。煤竹であると言うのは珍しいだ
ろうがそれ以外には…もう一つ珍しい点があっ
た。親骨に細かい彫りが入っている。文字が入
っているというものは幾度か観たが、こう言う
細かい彫りが入っているものは多分初めて観た。
 じっくりと眺めた後、ゆっくりと広げてみる。
扇面は藍染であろうか。紺地に銀泥で薄が文人
画風に描かれている。その上から雲母が掛けら
れているのだろうか。全体に煌きが在る様だ。
 その扇面の景色を観て、ふと心に閃くものが
あった。確か、生前父が私にくれた扇子もそう
言う扇面の景色をしていなかったか、と。

 一先ず部屋にとって返し、私は引出の奥に忍
ばせた文箱を取り出して目当てのものを探した。
それは、父の扇子と同じ薫りを発して私を待っ
ていた。
 観た感じの様子は、父の扇子と真にそっくり
だ。違うのは親骨に彫りが入っていない程度。
広げてみるともう一つ違う点があった。
 父の扇子は画が描かれていたが、私の扇子に
は詞が入っていた。その扇面を見た瞬間、私は
これを渡された日の事を思い出していた。

 『これは、呪いの様なものですよ』
 微笑みながら父は私にそれを渡した。
 『出来るだけ肌身離さず持っていらっしゃい』
 『願いが叶った後も持って置くのですか?』
 私の問いに、父は瞬間微笑を凍りつかせ、そ
して静かに言った。
 『叶ったならば、こちらに返して下さい。仏
前に供えてから後はよろしく遣って置きますか
ら』
 そう言った後の父は、いつもの穏やかな表情
に戻っていた。
 
 何を願う為の呪いであったのか…そう、あれ
は恋愛成就血縁成就の為と言って渡されたのだ
った。父と私が親子の縁を結んでまだ間もない
頃。私が十五の頃の事だ。
 そして、私は父にこれを返す事が出来なくな
ってしまった。これを渡されて五年後に、父が
彼岸へ旅立ったから。
 恐らく私はこれを文箱に仕舞いこみ、今日ま
で封印してきたと言う訳か。多分父の旅立ち間
もない頃に無意識に行動したのだろう。
 そう言う追憶と共に改めて扇面を眺めている
と、ふと疑念が湧いた。父は何故この扇子を私
に渡したのか。この扇子の造りは、父の形見の
あの扇子と瓜二つと言って良い程。趣向を異と
した対の作りではないのか?
 改めて検分すると私が渡されたものの扇面に
描かれた詞は『ただ見つめ居る』とある。
 ただ見つめ居る…七つの音…何かの掛詞であ
ろうか。
 そして、ふと一つの考えが湧いた。父の扇子
の親骨で私の扇子の扇面を挟めば、符号が合う
のではないか、と。根拠みたいなものは無い。
ただ閃いただけだ。其れで何かが完成するなら
ば、親骨には何かが隠れている筈だ。
 再び私は父の部屋に入った。今度は父から貰
った扇子を携えて。

 先ず、自分の扇子を広げる。次いで、父の扇
子を広げ、親骨をじっくりと検分した。そして、
私は父の残した言葉を其処に発見した。懐紙を
取り出し、書き出してみる。
 
  しのぶれど さびしくはなし
  こいなれば ただときはすぎ

 五七ずつの詞が模様に紛れて彫り込まれてい
たのか。そして其処に私の扇子扇面に描かれて
いた言葉を加える。

  しのぶれど ただ見つめ居る 恋なれば
   さびしくはなし ただときはすぎ

 全ては気付くのが遅すぎた恋だったのか。私
は、静かに臍を噛んだ。
 
 いつか私が父の許へ逝く時にはこの二本の扇
子を忘れるまい、と思った。(了)

○●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて
戴きます。
前号でもお報せ致しましたが10月10日は筆者の
自己都合により一回配信をお休みさせて戴きま
す。
では10月20日配信の次号まで、御機嫌宜しゅう。
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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第二巻弐拾七回 2005.9.30発行

文責:葡萄瓜XQO
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