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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第三巻壱拾回  小説「えあらいむ」
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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回。お楽しみ戴ければ幸いです。

○●○

   えあらいむ  
               XQO

 玄関を開けると、清々しい枯れた香りが僕を
先ず出迎えた。
 「お帰り」
 「只今」
 何気無く帰宅の挨拶を交わしてはいるけど此
処は僕の家ではない。彼の家だ。世間で言うな
ら通い婚と言う奴かな。一週間毎に御互いの家
で暮らしているのだから半同棲と言ってしまっ
ても良いのかも知れない。
 「模様替え、したんだ」
 「色々廉かったしね。青写真もあったし」
 「ふうん」
 床は煤竹のマットで敷き詰められ、窓にはよ
しずが掛かっている。御丁寧にスリッパも煤竹
張りだ。
 「物要りだったんじゃない?」
 「心配無用。殆ど遣い回しだから」
 一つ心配になった事があったけど、流石に浅
ましいから聞くまいと口を噤む。そしたら、後
ろ手にメモを渡された。
 『畳の跡は趣味じゃないから』
 読まれているなと苦笑する。こう言う浅まし
さを以心伝心で判ってしまうのはどうしたもん
だろう。
 椰子編みの団扇でゆるゆると扇ぎながら茶を
啜る。これが野郎二人の住居の瞬景だと言うの
は我ながら俄かに信じ難い。気取りとか御洒落
を目指した訳ではなく、ただ快適を求めていっ
た結果だけど。
 そう言う穏やかな時間が流れていたと思って
いたからこそ、彼が告げた言葉に僕は余計に吃
驚した。

 「一週間、一人の時間が欲しいんだけど」
 「ん、いいよ」
 彼が重ねて言う。
 「一ヶ月に就き一週間なんだけど本当に良い
んだね?」
 「え?」
 「一年間五十二週間の内十二週間は一人にな
りたい、といえばよく判る?」
 「……イメージ出来た。でも」
 「あ、理由は俺自身でも良く判らないから説
明パス。悪い感情が元じゃないと言う事は確か
かもね」
 「そ…か?」
 「多分。でなきゃ浅ましくなりたいなんて思
えない」
 彼の言葉を反芻しながら段々と落ち着く。今
告げられているのは別れの言葉ではなく、これ
からも継続する為の改善案と言うものなのだろ
う。それを否定する権利は多分僕には無い。
 いっそ即物的な繋がりだけの関係ならこう言
う時楽なのだろう。生憎と僕と彼はそれだけの
関係ではなく今まで継続してきた。即物的なだ
けでも良いなら目星はあるがそれ以外の条件も
込みとなると彼以上の物件が中々望めない。
 と、考えている内に成る程と彼の提案の要点
が判ってきた。快適な距離を保とうと思えばあ
る程度の孤独も確かに必要かも知れない。その
必要性を彼が僕に告げたと言う事は、継続を更
に快適にする為に、と言う事なのだろう。彼は
彼だし僕は僕。よく似た二人ではあるけれども
分身ではない。それぞれを愉しむ時間があって
当たり前という事か。
 「風通しを良くした方が長持ちする、か」
 「そう言う事。まあ、一週間と言うのは目安
だけどね。その間に補給欲求が出ないとは限ら
ないし」
 椰子編み団扇を弄びながら応じる彼。
 「そう言う時には押しかける事もあるんでそ
の辺よろしく」
 「僕の部屋にかよ」
 「当然。俺の別荘なんだからそれなりにして
おいてよね」
 返す刀で釘を刺される。よく似た二人ではあ
るけれども部屋の在り様に対する考え方は結構
違う。
 「良いか、合わせるのも」
 「無理は言わないけど。それなりでね」
 「ん、了解」
 「じゃ、とりあえず来週スタートで」
 「頭に入れておくよ」
 そして、再びゆっくりした時間が流れ出す。
確かに風が通る隙間があると言うのは心地良い
のかも知れない。風が通れば又新しい顔が見え
たりもするだろうし。
 とりあえず、自分の部屋に戻ったらブライン
ドを天津すだれに替えてみようか。それから木
片で編んだ扇子を二つ用意して。
               (了)
○●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて
戴きます。
では次号配信まで、御機嫌宜しゅう。
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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第三巻壱拾回 2006.5.25発行

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