★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
☆
第三巻拾八回  小説「136」
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回。お楽しみ戴ければ幸いです。

○●○

             136
              XQO

 開け放した窓から、少しの肌寒さと月の光が
忍び込んできた。
 「ん…ん…ぅ…」
 くぐもった声に起きるのかと身構えたらその
まま寝息が続いたので拍子抜けする。暑がりな
癖に纏ったパジャマとタオルケット。その隙間
から垣間見える肌が月の光の中青白く浮き上が
って見える。
 美しいとは思うけどね。僕が惹かれたのはこ
う言う彼じゃない。
 むしろその垣間見える肌をずっと上に上がっ
ていくと目に入る寝穢く涎を垂らしている一寸
崩れた顔こそが僕の惹かれる所。夢ばかり見て
居たくもあるけど、僕等の立ち位置は生憎と現
実な訳で。なら、少しでも気楽に永く過ごせる
存在であるに越した事は無い。
 で、そんな事を考えながら顔を鑑賞してると
こやつは目覚める訳だ。
 「……寝てないの?」
 「見とれてた」
 「やめれ。鳥肌が立つ」
 大欠伸、のち横腹掻き。
 「腹、減らない?」
 「茶漬けで良い?」
 「塩昆布のせてね」
 「渋過ぎ」
 「少しでもあっさりしてる方が良いの」
 布団を横に片して卓袱台を引っ張り出して二
人して茶漬け啜る…って、何処の何時の時代の
ドラマなんだろう。相手が相手でなきゃ御免蒙
ってる。
 茶漬けを啜り終えて静かに茶碗を置く。その
音さえも少し大きく響く感じがして落ち着かな
い。認めるのに少し抵抗があるんだけど、こう
言う状況下でもときめきという感覚は発生する
らしい。野郎が野郎にときめくなんて不毛だろ
うなぁ、と堅気の考えで溜息を吐く反面、そう
言うだらしない一面を持つ彼にときめいている
自分を誇らしく思っていたりする。
 「涼しくなったな」
 「大分ね。何かもう一枚出す?」
 「どうせ捲れるから良いんじゃない?」
 「いざとなったらスエットもあるしね」
 「……それって侘しくない?」
 「現実に即した対応法と言って」
 「来たままで対応しろってか」
 「経験値があるから出来るでしょ?」
 我ながら色気も遠慮もないね。
 「……ま、良いか」
 「なんか言いかけた?」
 「多分こう言う場面に於いて言われるだろう
在り来たりな台詞。気にしないで」
 「そう言う台詞なら普通僕の方が連想するん
だけどな」
 「引き込んだのは俺の方だから」
 わざと視線を合わせないぶっきら棒な口振り。
こう言う仕草に彼の中の「男」を感じる様にな
った。「雄」になる事は踏ん切りさえつけば多
分簡単だけど、「男」になる事はきっと大きな
きっかけでもないときつい筈だ。
 「一人で背負わなくて良いよ。受け入れた僕
も一蓮托生だから」
 僕も視線を合わせずに指を絡めてみる。絡め
返される幾分小さめの、でも僕よりは逞しい感
じの指。この指が今よりまだ華奢だった頃から
ゆっくり進んできた関係が彼を強くしたのだろ
うか。だとしたら僕に後悔のあろう筈はない。
 「月夜の晩って、だから苦手だ」
 「そう?僕は好きだけど」
 「柄でもない事考えるわ、無防備になるわで
さ。……鬱陶しくない?」
 「でも、その部分だけ切り捨てられないでし
ょ?」
 「うん」
 「その部分がなかったら多分僕がこの関係に
飽きてた」
 軽く固まる彼。それをにやりと笑って眺める
僕。整った顔を手を講じて弄るのも愉しみの一
つだなんて告白したら、吃度呆れられるんだろ
うな。まあ、これは世間的な立場役割を持つ僕
の特権なのかも。
 「…俺がこれ以上育ったら、捨てる?」
 辛うじての上目遣いで年相応に戻る。苛める
のは程々にしておくか。
 「そのつもりなら、疾うの昔に離れてるよ」
 笑いかけて、横の空間を軽く二回叩く。この
先は多分言葉ではなくて体で会話した方が早い。
初めて肌を重ねたあの中秋の夜の様に。
 少し欠けた美しさの方が、心にはずっと残る
だろうから。

 卓袱台の上の大きさが僅かに違う同柄茶碗は
静かに乾いていく。 
               (了)

○●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて
戴きます。
では次号配信まで、御機嫌宜しゅう。
=======================
仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第三巻拾八回 2006.9.25発行

文責:葡萄瓜XQO
website:『仇花の記憶』
http://kamakura.cool.ne.jp/xqo/
mail:xqo_gm@yahoo.co.jp

このメールマガジンは
melma! 
http://www.melma.com/backnumber_90840/
メルマガ天国 
http://melten.com/m/14637.html
Mailux
http://www.mailux.com/mm_dsp.php?mm_id=MM3FAB47D02D533
メルカップ
http://www.melcup.com/cgi-bin/magazine/magazine.cgi?mag_id=M000000737
のシステムを利用して発行させて戴いています。

ご意見ご質問等はWebサイトBBS
http://otd11.jbbs.livedoor.jp/adabana/bbs_tree
にて承ります。
又連動BLOG「ショタやおい雑記」も運営しております。
http://xqosy.seesaa.net/
こちらも宜しくお願い致します。

バックナンバーはサイト内にて公開しております。
再配信ご希望の場合はお手数ですがメール若しくは
BBSにてご用命戴ければ幸いです。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

back   配信済top   次回配信分