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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第四巻拾四回  小説「たがいあきない」
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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回。お楽しみ戴ければ幸いです。

○●○

     たがいあきない
               XQO

 スープと味噌汁の違いは何か。
 多分それは味わい方の違いだと思う。味噌汁
は味わう時に熱々であると言う前提の上で味が
調整が為されていたりするが、スープは決して
そうではない。むしろ少し冷ましてからの方が
好い味わいになる様に…時にはしっかり冷やし
た時の方が好い味わいになる様になっていたり
する。只、中途半端に温いのは戴けないけど。
 恋愛も多分そんなものかも知れない。色恋沙
汰の話じゃないけど、距離感を現す喩えにある
じゃない?「スープの冷めない距離」って。魔
法瓶とかを使わないでそう言う距離を上手く保
てたら素敵な関係になるんじゃないか…と恋を
する以前はホント真剣に思ってた。
 今、そういう恋愛の当事者になってみてその
思い込みを保つ事自体が既に難しいんじゃない
かと実感してるけどね。
 こっちがスープを冷まさない様に、って持っ
て行っても相手が氷を持って待ち構えていたり
したんじゃどうにも抗い様が無いし。

 「レンジでチン、もう飽きた」
 ハイハイそうですかと心の中で受け流しなが
らも顔ではにこやかに返答する。相方の我儘は
今に始まった事じゃない。五年そう言うのに付
き合っていれば充分根っこは見える。
 「オレが居ない時にも温かい食事が欲しいと
いったのはキミでしょ?」
 「うん。そうなんだけどね」
 「まさかオレにキミと同じ時間帯で生活しな
さいなんて仰らないよね?」
 冗談の一言に一瞬素で真剣な眼つきになるの
は止めて欲しい。そういう人だと判って挑発し
てるこっちの自業自得なんだけど、オレの言い
たい事はちゃんと別にある。そこに思い至って
欲しい…って、オレも甘えてるね。
 「物理的な温かさ、じゃないんだな。安心出
来るのは」
 呟いて頭を一振り、身体の向きを変えて珈琲
の準備をしてくれる彼。フィルターの中の珈琲
豆に湯が落とされて膨らむ微かな音、そして、
部屋を満たす甘く苦い薫り。
 「砂糖は?」
 「今日は、貰おうかな。二つで」
 「僕もそうする」
 普段は入れない砂糖を二人して求めてるとい
う事は、多分それだけ頭を回転させている証明
なのかも知れない。味覚による現実逃避なんて
多分先例は無いだろうし。
 「ああ、貰い物だけどサブレもあったんだっ
た。如何?」
 「いいね。いつものところ?」
 オレを軽く手で制し、彼が水屋を探し出す。
気遣いが判るから、オレも敢えて甘える。
 待ってる間に指折り数えて確認して、流石に
苦笑する。オレ達がこうしてコーヒーを差し向
かいの飲むのって、二ヶ月振りだ。幾らなんで
もここまで二人の時間をお座なりにするのって
ないな。別居生活の恋人達だってもう少し密に
二人の時間は取っているだろうに。
 こういう倦怠感の解決策が一応はある。簡単
な事だ。肌を重ねれば多分なんとなく収まる。
でも、それを双方ともに選択しないのは、それ
が一時凌ぎにしかならないと判っているからだ。
肌の相性だけで五年同居を続けて来た訳ではな
いと言う自負もあるし。
 そしてしばし、コーヒーカップを傾ける気配
だけで会話を試みる。こういう時に変に言葉を
過剰にしても多分弁明にしかならない。それよ
りは互いの空気を肌で感じて心を研ぎ澄まして
行った方が良い。その際思い込みを出来るだけ
排除するのは勿論の事だ。

 ふと時計を見上げると一時間経過していた。
久しぶりの会話で一時間かという気持ちもない
ではないが、体感時間を考えると濃厚な時間を
過ごせたのかも知れない、とも思う。なし崩し
で肌を重ねたのなら、一時間でここまでは満た
されまい。
 「せめて、週一回は二人で台所に立ちたいな」
 「時間さえ選ばなければ可能かな?」
 「調整は、多分利くな」
 「四六時中、って望んでる訳じゃないけど、
せめて、ね」
 「その方がスープも冷めないしね」
 「少なくとも温め直さなくても良いよね」
 後始末に台所に立とうとして、じわりと手を
握られる。
 こちらも握り返し、そして指を絡めてみる。
 この感触を最低限週一は味わえる様になるの
かな、と思うとかなり嬉しくなった。流石に過
熱させようとはもう思わない。ゆっくりゆっく
り熱くなれば良いだろう。出来るだけ冷め難く
する為に。   
               (了)

○●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて
戴きます。

ここで暫し喧伝をば。
来る十月七日、大田区産業プラザpio大展示ホー
ルにて行われる少年系総合同人誌即売会『ショ
タスクラッチ』カタログ掲載コラム『ショタコ
ンのゆりかご』第四回(最終回)を引き続き書
かせて戴きます。
名義は「ぶどううりくすこ」表記でございます。
ご来場及びご高覧戴けましたら幸いです。

では次号配信まで、御機嫌宜しゅう。
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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第四巻拾四回 2007.7.25発行

文責:葡萄瓜XQO
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