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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第五巻拾四回  小説「色墜ち」
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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回。お楽しみ戴ければ幸いです。

○●○

  色墜ち
              XQO

 『お前さんの遣ろうとしている事は染め物で
も何でもねぇよ』
 煩いな、判ってるよ。
 『自分の色をみっともなく擦り付けたって、
俺ぁお前さんの色には染まりゃしねぇよ』
 何それ?こっちがムカつくのを愉しんでる?
 『染め物を愉しむにはムラ染めにも含蓄くっ
付けねぇとなぁ…。板ッ切れみたいにのっぺり
色が乗ったらそれはそれで気持ち悪かろうさ』
 ……昔の男のこんな台詞を思い出しながら目
が覚めるなんて最悪だ。視界に入った光景を見
て更にめげてしまう。
 青空は一面の青空だからこそ価値がある。雲
ひとつ有ってはいけない。ましてや罅割れなん
てあって良い筈が無い。又ペンキを一缶買って
来ておかないと。

 疾うの昔に名前も忘れた初めての男。馴れ初
めも既に忘れてしまった。ただ相手の手管が良
かったのかおぼこかった僕がその後こういう水
に慣れるのは結構早かった様に思う。
 なんだかんだ言って良い男だった。特に何処
が如何こうと挙げる事は出来ないけど。如何し
ても贔屓目は入ってしまうんだろう。そうでも
思っておかないと何処かで受け入れ難い部分が
今でもあるのかも知れないけど。

 見上げると空を模した真っ青な天井。元々は
コンクリート打ち放しの天井だった。それを青
くしたいと言い出したのは僕の方だ。一人で寝
ようと二人で寝ようと常に天井を見上げるのは
僕なのだからそれ程は自分の好きな色に染めて
おきたくなる。単純な色彩の好みを言えば紅も
好きだし緑も好きだ。でも見上げると言う前提
で考えるならば青が良い。贅沢を言い出せばき
りが無いけど出来れば奥行きを感じさせる濃度
のある青が良い。そして一点たりともくすんだ
り淡く翳む様な部分があってはならない。一面
の青天井に見下ろされる事にこそ意味があるの
だ。他の色は要らない。強いて言うなら塗料に
鈍く反射する肌色がうっすらあれば良い。
 でも少し重ね塗りが過ぎたかも知れない。こ
れでは青天井ではなく丑三つ時の空だ。アクセ
ントに星でも散らしてやらないと格好がつきそ
うに無い。不本意ながら一度ざっくりと色を落
として…と言うのは無理だな。色の無い状態を
我慢出来そうに無い。
 ……見えてしまうから気になるのか。ならば
いっそ覆い隠してしまおうか。
 便利帳を繰って一番手早く工事を済ませる工
務店を探し、一番速い工期終了の約束を取り付
ける。継ぎ目の目立たない硝子タイルを一面に
敷き詰めてしまえば色の褪せを気にする事はも
うあるまい。天井のついでに壁にも青をしっか
りと敷き詰めてしまおう。
 そう。目の前の壁からもぽろぽろペンキが剥
がれ落ちている。思い出したくない、見たくな
い過去を染め替える事が出来ないのなら、いっ
そ封じて仕舞わなければ。蘇って来る様な小癪
な真似をされない様に。
 丁度良い機会だ。透明な青でしっかりと封印
してしまおう。そして僕自身も透明な心で歩き
出す様にするのだ。
 それならばこの余った一缶のペンキはどうし
ようか。…そうか。ベッドを塗り替えてしまえ
ば良いんだ。外枠は青、シーツは白。全くもっ
て理想的な配色になるじゃないか。

 床一面に散乱した硝子タイルのお陰で足の踏
み場も無い。タイルの落剥と言う事例は確かに
あるけれども、完璧と言って良い程に貼り付け
られた全てのタイルが落剥する坏と言う事態は
稀だろう。
 多分条件が合致し過ぎたのかも知れない。材
質・重量・下地、そして技法。そうでもないと
壁と天井の一面の青が床を目掛けて降り注ぐ状
況なんて説明出来ないだろう。
 だが、更に不可解な事がある。
 この部屋がここ五十年は空き部屋だったと言
う事だ。借り手が居なかった訳ではない。ただ
一日として定住しなかっただけだ。そしてその
借り手達の誰一人としてこのタイル工事を発注
していない。でも、工事は確かに発注されたの
だ。

 硝子タイルに紛れて、酸化して黒く錆付いた
ロケットペンダントが転がっている。その中に
納められた一葉の写真。大人になりきっていな
い少年が、誰かに背後から抱きしめられている
らしき、そんな一場面の写真。
 転がり落ちた拍子に開いた蓋から覗いた少年
の肖像は、冷酷な満足感に満ちた笑顔を浮かべ
ていた。何かを成し遂げたかの様に。
                  【了】

○●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて
戴きます。

ここで暫し事務連絡をば。

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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第五巻拾四回 2008.7.25発行

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