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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第六巻弐拾弐回  小説「その幾つかの断章で」
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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回。お楽しみ戴ければ幸いです。

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    その幾つかの断章で
                 XQO

 食卓の上に無造作に置かれた封筒。いつもと
同じ行動様式に則ったものであるが今回の封筒
は少し華やかだ。その色合いで今日がクリスマ
スイブだった事に気付くと言うのは、少し拙い
状態かも知れない。
 金無地に赤と緑のワンポイント、と言うのは
相方にしては上出来な選択だろう。可愛らしさ
の追求と言われて彼が真っ先に連想するのが今
や全国展開になったあの猫様の御影だ。嫌いじ
ゃないけどそう言うのはもう十年若い時かもう
二十年歳喰ってからにして欲しい。あのセンス
を昇華するのは結構大変なのだから。
 閑話休題。二人暮しになって以降も行動する
時間帯が中々重ならない僕達にとって食卓の上
の封筒と言うのは重要な会話手段だ。正直言っ
てこの存在があるから偶の睦言が濃厚になりが
ちだというのは否定しない。
 で、その「会話」でやっと到来した時節に気
づくと言うのは褒められたものでは無い。こち
らが急拵えの仕度すら出来ない状態だから尚更
の事。
否、出来合いのものだったら充分可能ではある。
なんとなれば窓を隔てて向かいにあるコンビニ
に飛び込めば良いだけの話だ。でもそれで良い
様な話だったらこんな気拙い思いを噛み締めて
いる筈が無い。
 今回の伝言はそれこそ特別な贈り物と言う念
が籠もったものだ。それの返しが出来合いの有
り合わせなんて流石に有り得ない。
 …中身の予測が出来てるからこそ、余計に疎
かに出来ないんだなこれが。これの為に相方も
ない時間を捻り出して注いだ訳だろうし。手を
抜こうと思えば出来るのにわざわざこっちの好
みに合わせて貰ったと言うのもあるんで。
 さあ、どうしようか。楽過ぎる対処をすると
いう選択肢は最初から持ち合わせていないし復
旧させるつもりもない。そこを落ち所にするの
は倦怠期に陥ってからの相談だ。
 帰り道に出来る限りのものを確保しておくか
な。あと半日の余裕があればネットも織り込ん
で手を練る事が出来るが今更の話だ。久し振り
にそう言う悪戦苦闘を愉しんでみるのも悪くな
い。

 安史宛に封筒を残したのは何時もの習慣の延
長線上。クリスマスを演出したのは単純に時節
の挨拶の心算だった。
 返しは一切期待してない、と言うよりしちゃ
いけない。愛情の軽重じゃなくて安史の許容量
の問題として。結果的に何時も返して貰ってい
るにしてもそれはあくまで特別な事例だと自分
に言い聞かせる様にして居る。
 適正で互いの生業を選択し結果として今の生
活がある訳だから、我儘から発生する余計な負
担は増やすべきではない。
 こっちが安史のフォローをする分には良いん
だよね。家庭の空間を主に保持しているのはこ
っちだから、当然家族のフォローもその業務の
内に入る訳で。ただそれを見せ付ける様に遣る
事だけは避けておかないと。見せ付ける事で負
担を掛けるのはフェアじゃない。こっちは自宅
を仕事場にして居るだけで役割比重としては対
等な立場なのだ。安史に寄生する様な部分が欠
片でもあってはいけない。男同士で暮らすと言
うのはそう言う部分も含めてだと思うから。
 中身に関して言えば…一寸重くなって仕舞っ
たかと思わざるをえない。こっちの趣味の押し
付けでもあったりする訳だしなぁ。かと言って
自重する心算は更々無い。あの形式でしか言え
ない事がある以上、そこだけは譲れない。
 或る意味言葉で生計を立てている身ではある
けど、いざ素の状態で睦言を紡ぐとなるとまる
で駄目になる。餓鬼の頃の方が余程饒舌だった
程だ。語彙が多かろうが少なかろうが意味す
る所だけぶつけてれば何とかなったしな。大人
になるとその点段階を踏むという事を覚えてし
まうので回りくどい事この上ない。嫌いじゃな
いけどね,それも。
 ただ寄りかかるだけじゃ面白く無い。折角等
分な立ち位置で恋愛してるんだからそれなりに
楽しんで歩調を合わせないと。

 とりあえず崔斗の部屋の前に一抱えの荷物を
おき、改めて封筒を開ける。傍らには手回しオ
ルゴールを置いて。
 …この瞬間の誘惑に負けて状況を容認してし
まうんだよなぁ。元よりこっちも嫌いじゃない
から、そう言うの。
 入っていたのは何時もの如くほぼワンフレー
ズと思われるパンチシート。傍らのオルゴール
で再生し…ている途中で顔から火が出そうにな
る。
 悪意がないだろうと言う事は判るけど初めて
の時のBGMをぶつける事はないだろうよ。覚えて
いる僕も僕だが。
 でもこう言うのをぶつけてくるという事は未
だ愛想尽かしはされてないって事か、と一寸安
心する。だからこれからもよろしくと襖越しに
囁いておく。次は何が来るだろうかと楽しみに
して。
                  【了】


○●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて
戴きます。次号配信まで、御機嫌宜しゅう。
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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第六巻弐拾弐回 2009.11.25発行

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