★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ 仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜 ☆ 第六巻弐拾四回 小説「奇跡一声」 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ 御機嫌よう。葡萄瓜でございます。 第六巻最終配信回、そして小説配信回。 お楽しみ戴ければ幸いです。 ○●○ 奇跡一声 XQO 深い溜息をついて椅子に凭れると、からかう 様に声を掛けられた。 「若だんさん、えらいお疲れですな」 「……ごめん、今はお約束は無しで」 「もとえ。随分お疲れですね、ジュニア」 「主に脳味噌がね。十年の差と言うのがあそ こまで酷いとは思わなかった」 「我々はそれを一年単位で体感してますから ね」 さっきからツッコミを入れてくるのは人工知 能の『佑』。開発コード名BANTO5963。 個人秘書ソフトとして父が開発したDETCH 9847の発展形だ。さっきの大阪船場なまり はDETCH9847…『若松』開発当時にオ プションとして父の趣味で入れたもので『佑』 にも変わらず受け継がれている。作業中の気分 転換として自分以外の存在とボケツッコミをし て頭を解したくなると言う要望も開発当時から 既にあったので。但し市販品の『若松』も『佑』 も今の様に細やかかつ柔軟な対応をする訳では 無い。学習させるにも一応制限を設けてあるの でここまでにはならない。そこはそれ開発者特 権と言う奴だ。とは言えただ特権を享受してい る訳では無い。この結果を市販品に如何に反映 させるかと言う事は常に考えている。 「差し出がましい様ですが」 『佑』がやや節目がちなアバターで提案して 来ようとする。ここで素直に乗るのが礼儀だろ うけど、余り安直に乗りすぎてこれが一番の解 決法だなどと短絡されては今後の面白みに欠け る。 「まだ太陽が高いだろう?はしたないね」 やや語尾に含みを持たせて、誘いに聴こえる 様に。案の定、『佑』のアバターは全身深い桃 色に染まった。それを眺めておくだけでもかな り気分が解れるからこのまま放置しておこう。 それにしても、と思う。父は『佑』と『若松』 に何を託そうとしたのだろう。『佑』にしても 『若松』にしても市販モデルはきちんとした声 の持ち主がいて、彼等に外注をかけた上で一応 の完成品となる訳だがオリジナルの彼等…今私 の傍にいる彼等の声の持ち主は今はいない。 『若松』開発当初はいたが、完成時にはいなく なってしまった。 『佑』の声も『若松』の声も私の兄のそれを 合成音声で限りなく忠実に再現したものだ。 『若松』は変声期直前のもので『佑』は成人後 間も無くのもので。 だから時折胸が微かに痛む。血縁への郷愁も あるが、それ以上の感情もあるから。 そう。私と兄とはそう言う関係でも長年の繋 がりがあった。どちらが誘ったと言う訳でもな く、気がついたらそうなっていたので責任転嫁 の仕様も無い。一蓮托生が最初から暗黙の了解 としてあった。出来る限りの注意は払っていた ので恐らく父にも知られていなかった筈だ、と 『佑』のある種の声を聞くまでは思っていた。 あからさまなそう言う声では無い。ただ、発 声の原理は恐らく同じであろう声だ。 それに気付いた瞬間、父の存在に対する認識 が少し変化した。結果として私は以降父を最後 までDETCH→BANTOシリーズの開発者 として認識し、彼と心を開いて向き合う事を放 棄した。世間から見れば背徳とは言え私にとっ ては聖域だ。そこを乱そうとした人物に対して の接遇としては適切だろう。 そして父も私の変化に合わせ親子以上の距離 を置く様になっていった。私が実業家として世 に出始めた事も多分それらに拍車をかけたのか も知れない。私達はいつしかプログラム開発者 親子としてではなく、開発者とその出資者と言 う認知をされる様になっていた。 その父も、今では鬼籍に入っている。BAN TOバージョン3が流通軌道に乗った事を見届 けて。 『佑』と『若松』に自由な会話をさせてみる。 不毛だと思うが、兄の生前の自問自答振りを思 い出すとつい遊んでみたくなった。ある意味贅 沢なあそびだろう。不毛と言うか冒涜ではある けれども、兄は何かあった時は記憶の中の自分 と会議を頻繁に開いていたのでその再現を公開 状態にして居るだけだ、と強弁してみる。 そう、私はあくまで観客でしかなかった。そ の筈だった。 不意にディスプレイ越しにこちらを見つめる 『佑』と『若松』。そして揃う声。 『Happy New Year』 その刹那、私は久し振りに涙した。恋人と愛 人を二人とも無くしてしまった件について。 【了】 ○●○ さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて 戴きます。 ここで自己喧伝をば。 来る12月31日、東京ビッグサイトにて行われま すコミックマーケット77・三日目会場上で、 「西館-り-04b」で参加されます 吉本たいまつ様個人サークル 「みるく☆きゃらめる」 にて「ショタコンのゆりかご」冊子増補改訂版 を委託頒布させて戴く運びとなりました。 今迄同様無料頒布形式となります。 委託頒布を快諾して戴きました吉本たいまつ様 、 誠に有難うございました。 ********* 『ショタコンのゆりかご』冊子増補改訂版 二冊分冊・B5版・オフセット版 本編:縦組三段・表紙除く16頁・無線綴【黄色表紙】 + 資料附表:横書・表紙除く8頁・中綴【橙色表紙】 ********* 御高覧戴けましたら幸いでございます。 では明年の次号配信まで、御機嫌宜しゅう。 ======================= 仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜 第六巻弐拾四回 2009.12.25発行 文責:葡萄瓜XQO website:『仇花の記憶』 http://kamakura.cool.ne.jp/xqo/ mail:xqo_gm@yahoo.co.jp このメールマガジンは melma! http://www.melma.com/backnumber_90840/ Mailux http://www.mailux.com/mm_dsp.php?mm_id=MM3FAB47D02D533 おしらせメールサービス http://www.marine.ne.jp/mm/user.asp?id=75297 Yahoo!メルマガ http://merumaga.yahoo.co.jp/Detail/17353 まぐまぐ http://www.mag2.com/m/0000270330.html E-Magazine http://www.emaga.com/info/adabana.html のシステムを利用して発行させて戴いています。 ご意見ご質問等はWebサイトBBS http://otd11.jbbs.livedoor.jp/adabana/bbs_tree にて承ります。 又連動BLOG「ショタやおい雑記」も運営しております。 http://xqosy.seesaa.net/ こちらも宜しくお願い致します。 バックナンバーはサイト内にて公開しております。 再配信ご希望の場合はお手数ですがメール若しくは BBSにてご用命戴ければ幸いです。 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆