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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第八巻四回  小説「袖触れ合うも」
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**第七巻弐拾号より横幅を
         若干拡げて配信しております**

御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回、お楽しみ戴ければ幸いです。

○●○

   袖触れ合うも
                XQO
                                
 「相席、良いですか?」
  不意の声掛かりに我に帰り、話し掛けて来たきた相
手を見返す。清潔そうだが潔癖そうでは無い、世間で
言う良い男の部類の顔だ。
  「どうぞ」
  「有難うございます」
  どうも、とは返さないのか。そう言うぞんざいさを
知らないと言うのは希少価値だろう。
  「独り旅とは珍しいですね?」
  どうせ行きずりだから、と自分に言い訳をして探り
を入れる。独り旅の退屈が崩れた事で下世話な好奇心
が目覚めたのかも知れない。
  「ええ、まぁ」
  頬を少し赤らめ、心持ち視線を遊ばせながら返され
る相槌。世間ずれして居ないその反応に徒らで徒な追
求なぞ止しておくかと矛先を収める気になった矢先、
思い切った様な声が耳に届いた。
  「愛想、尽かされちゃいました」
  言って清々したと言う表情に少し気の毒さを覚える。
でもそれは恐らく彼にとっては余計なお世話と言うも
のだろう。恐らく彼には物心ついた時から己が旅人で
あると言う自覚が根付いていただろうし。その旅は一
人で行うものではなく二人で行うものだと言う事はき
っと後付けの情報として学んだのだろう。だから然程
のショックが無いのだと思う。
  「相手の方も随分とまぁ…」
  「アハハ。まあ、仕方ないですよね」
  彼のお相手なのだからやはりそれなりの、とは思う。
問題はどうやって下船して別に旅立ったかだ。特別な
伝でもない限り己の意思でこの舟からは中途下船出来
ない筈だ。
  「気球に攫われちゃいまして」
  「もしかして望まずに?」
  「どうでしょうね。よく判りません」
  「そうですか…いや、不躾失敬」
  「いえ、良いです。誰かに話して楽になりたかった
し」
  清々したと言う表情に少し怒りが混じる。でもそれ
は相手を詰る為ではなく多分自分に向かったものだろ
う。それは私がほんの少し前まで持ち合わせていたも
のだ。彼が座っている空席にいた筈の存在も偶然かど
うか風に乗って去ってしまったから。
  「長いんですか?」
  「長い、とは?」
  「旅路です」
  「ああ。…まあ、成り行き上長くなりましたね。本
当はもう終っていた筈なんですが」
  それは実際不本意な成り行きだった。少なくとも自
分で知る限りこの経路でこんなに時間が掛かるのはお
かしい。迂回路なのかと言う疑念も抱いたがそうでも
ない様だし。
  「そう、ですか」
  さて弱った。後を継ぐ為の適切な言葉が出て来ない。
こちらは無言に結構慣れているから良いにしても彼は
居心地がさぞ悪か…一寸待て私は何故こうも彼の事を
気に掛けている?たかがさっき知り合ったばかりの行
きずりの相手だというのに。
  もしそれが人恋しさや憐憫から来る自己満足だとし
たら彼に対して相当に失礼だ。行きずりの関係にだっ
てそれなりの礼儀はあるだろう。例えば必要以上に踏
み込まないのなら、とか。
  ふと我に帰ると祈りの様に組み合わされた私の手を
彼の掌がそっと包んでいた。私は俯いたまま何かを堪
える。そんな私を肯定するかの様に、彼の掌はほのか
な熱を伝え続けていた。
  良いか、無理に紡がずとも。
  何も言わず彼に軽く体重を預けてみる。一瞬体が堅
くなったが、徐々にこわばりが解け、上昇しつつある
体温が伝わってくる。以心伝心は多分成功したらしい。
意思疎通から一歩前進出来ていると言うのは多分上出
来だろう。
  「不謹慎かも知れませんが、一目惚れと言うのは運
命でしょうか?」
  「別の回答が多分ありますが敢えて言いません。不
謹慎ですから」
  「それなら、多分良いです」
  実の所私も怖いのだ。仮説の解答を得たとしても彼
もいなくなったら元も子もないと。だから、これで良
い。行きずり同士がたまたま乗り合わせる様になった
と言う、それだけの縁で。
  そこから私達は向かい合いながら舟に揺られていた。
気分をゆったりと持つには御誂え向きの緩やかな流れ
だ。水面を渡る風に潮の香りが混じっているから間も
無く海に出るのだろう。
  
  雄雛同士の流し雛がゆっくりと河口へ進んで行き、
そして海へと流れて行った。果たしてその流し雛には
何が籠められていたのだろう。 
                                    【了】

○●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて戴きま
す。次号配信まで、御機嫌宜しゅう。

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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第八巻四回 2011.2.25発行

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