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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第八巻六回  小説「春の気配」
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**第七巻弐拾号より横幅を
         若干拡げて配信しております**
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3月11日に発生しました東北地方太平洋沖地震(東北
大震災)にて罹災した皆様方に心からお見舞い申し
上げます。
居住地の差異の為たまたま罹災しなかった筆者に出
来ます行動は限られておりますが、幾許かが皆様の
潤いに繋がりますならば幸いです。

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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回、お楽しみ戴ければ幸いです。

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  春の気配
               XQO

 随分この人も変ったよね、と猫背気味の半纏姿を
みて思う。知り合った当初は絵に描いたと言うかハ
リボテの様な芯の無い強さを振りかざすだけでいざ
となれば使い物にならないヘタレだった。創作上の
ヘタレと言うのはそれでも愛すべき余地があるんだ
けど実生活上で創作そのままの極悪なヘタレ加減を
発揮されると精神衛生に悪いと言う以外にどう言え
ば良いのか判らない。軽度のヘタレならまだこちら
も受け止める余地があるんだけどね。
  そう言う手合いの可愛気なんてのは周囲に受け止
める余地がきちんと存在するからこそ発揮されるも
のであって、そうで無ければそいつはただの棘でし
か無い。そいつを愛すべき理由を探す余裕を先ず作
る必要があるから。それが出来なければ適切な距離
を生成するのが多分一番の手なんだろう。
  でも幸いな事にこの人には学習機能が備わってい
た。自分で転びながら加減の物差を自作する様にな
り、何時しか受ける相談は如何したら建設的に善処
できるかと言うものに変わっていた。考えが深くな
ったのかも知れない。ぱっと見では未だに判らない。
何しろ煙に巻くのも上手になったものだからどんど
ん先読が難しくなっている。肝心な所を伏せながら
一人で考えて答を出してるから。
  ヘラヘラと言い切ってしまえれば多分まだ判り易
いんだけどそうじゃないからなー。確かに自立は望
んだけど、かと言って二人で悩んでみたくなる瞬間
ってのはある訳で。共有部分を十パーセントから三
十パーセントに引き上げて欲しいと言うのは、こっ
ちのエゴなんだろーか。二人で歩いているからには
そう言う荷物も共有したいと思うのに。
  立場で護る護られるが決まってくるってなんか不
公平だからね。そう言う事を望んでそう言う立場を
遣ってる訳じゃないから。
  
  この人と付き合いだす様になって随分鍛えられた
なと今更ながらに思う。でもその事を感謝出来る様
になるまでには時間は掛かった。はっきり言って掛
かった。その原因は自分な訳だけどそれが一切視え
てない状態だったから。
  思い込みと言うのは実際恐ろしい。僕等の関係が
世間の大勢で支持されている関係と完全に同じと思
い込んでしまっていたから、与えるべき修正の重要
性に気付く事が出来なかったのだ。今ならその必然
性が身にしみて判る。
  一言で言ってしまえばバランス感覚の問題だ。背
負う背負わないの問題ではなく、どう等しく在るか
の問題なのだろう。
  そう言う事を考え出してから足が止まった事も確
かにある。それは自分の中の脆弱性を誤魔化す事が
出来ないと観念したから。でも観念してしまってか
らは逆に開き直って対処する事が自身で意外な程に
簡単に出来る様になった。彼の中の強さを素直に感
じる事が出来る様になったから。
  思えば彼は最初から強かったのだ。腕力とかそう
言う意味ではなく精神的に。世間と折り合いをつけ
ながら同時に反骨する所はして、そして自分の形を
自覚し貫いてきた人だと言うのを俺が見逃していた
だけで。
  二人の関係を構築する際に最初の一歩をきちんと
踏み出したのも彼の方。俺は正視する事から最初は
逃げた。そう言う自覚も世間で言う束縛も理由無く
嫌がっていたから。俺の方が先に一石を投じたにも
拘らず。
  それだけしんどい思いをさせたんだから、平等に
荷物を背負わせるのは多分まだ早い。この期に及ん
で身勝手だとは思うけど、こっちの気が済むまで荷
物を背負わせて貰う事にしよう。せめて身長十セン
チ差の責務として。
  
  「おや」
  「ん?」
  「陽が射してきたな」
  そう言う気配を掴むのに巧みなお人だといつも感
心する。そう言う所は良い意味で野蛮だ。
  「脱ぐ?」
  「莫迦お言いでないよ」
  「……半纏の事なんだけど?」
  「洗濯にもタイミングってもんがあるでしょ。来
週まで我慢なさいよ」
  「ああ、ポイント二倍ね」
  「そうそう」
  莫迦を言い合いながら過ぎて行く昼下がり。こう
言う穏やかな時間を過ごせてしみじみ幸せだなと思
う。そう言う相手に恵まれた事も含めて。
  でも一寸暑くなって来たのでとりあえず半纏は脱い
で横に置く。埃に混じって不意に彼の残り香が漂って、
名状し難い気分に駆られた事はここだけの内緒だ。
                   【了】

○●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて戴きま
す。次号配信まで、御機嫌宜しゅう。

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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第八巻六回 2011.3.25発行

文責:葡萄瓜XQO
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