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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第九巻六回  小説「返杯」
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**第七巻弐拾号より横幅を
         若干拡げて配信しております**

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2011年3月11日に発生しました東北地方太平洋沖地震
(東北大震災)にて罹災した皆様方に心からお見舞い
申し上げます。
居住地の差異の為たまたま罹災しなかった筆者に
出来ます行動は限られておりますが、幾許かが皆様の
潤いに繋がりますならば幸いです。

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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回、お楽しみ戴ければ幸いです。

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  返杯
                  XQO
                                
 言葉の切れ目に袱紗包みをすっと差し出された。
そして無言のサヨナラ。
  傍から見るとドラマティックであろう別れの当事
者になると、血の巡りが相当に悪くなるらしい。ラ
ストオーダーだと囁かれてやっと我に返る程度に。
  
  袱紗包みの中は確認しなくても多分当たっている。
恐らく切子の杯だ。付き合って一年経った後実用に
もなる記念品を、と二人で考えていた時にたまたま
デパートの骨董市に出ていた一対。二人して色合い
に惚れ込んで即決で購入した。お陰で二人共財布の
中に交通費しか残らなくて家であれこれ膳を囲む羽
目になったけど。
  今にして思えばその時点までが世間で言う所の幸
福な状態だったのかも知れない。お互いの相違点を
愉しむという娯楽に倦怠感を覚えていなかったのだ
から。
  
  どの辺りからすれ違いが始まっていたのだろうと
考え始めて、最初からすれ違いはあったのだと記憶
修正し、そしてこれも運命だと思考停止する。その
ループを愉しんでいる自分に気付き、苦笑するけど
積極的に改善はしない。
  出会わなければ良かったという考えは不思議に起
きない。そう言う考えが起きていたなら今頃とっく
にループから抜けだして次の動きを起こしている。
未練を玩ぶ事すら億劫になっている可能性はあるが、
だからと言って未練を弄べば改善になるとは露程も
信じていない。
  結局の所、すり合せを真っ当に出来なかったと言
う一言に尽きるのだろう。先方は一切悪くないなど
と神仏を気取るつもりはないし、その責から自分一
人だけちゃっかり逃れようなんて考えはない。そう
言う芸当が出来る計算高さがあったなら今の状態も
無いだろうし。
  ただ、それならそれで最後の一押しを先方にさせ
てしまったと言うのが少し心残りではある。そう言
う儀式が必要だったにせよ、それを執り行うとした
らそれはこちらの遣るべき事だったのかも知れない。
夜の関係の順列から言って。
  
  そう言えば同居という選択肢は二人の中には存在
しなかったな、と改めて気付く。逢引は大概こちら
の部屋で、という暗黙の了解があった気がする。彼
の部屋に転がり込むという選択肢が全く無かった訳
ではない。便不便という観点から言うならば彼の部
屋で執り行う方が小道具が常備され揃っている分余
程後始末も楽だった。にも関わらず夜明かしをする
時は大概こちらの部屋で、と言う選択肢が暗黙の内
に採られた。
  もしかしたらそれは彼の気遣いでもあり、また二
人の愉しみだったのかも知れない。そう言う気分は
きっと同居していたならば早々に色褪せてしまった
だろう。
  二人の関係が十年継続出来たのは同居しない事で
得る事が出来たそう言う新鮮さの賜物だったのか。
  そう自問自答してみるとなんとなくすっきりする。
  そして同居という選択肢を横に措いたことは結局
一つのメリットを生んでいた。身辺整理を一人分だ
けすれば良いと言うささやかなものであるが。
  
  息を一つ吐いて袱紗包みを解く。
  出て来た切子の杯は実に艷やかだった。それはき
っと彼の手入れの賜物だったのだろう。
  全く使っていなかった訳ではない。極々偶に彼の
部屋で夜明かしをする機会があった時はこの盃が彩
りになっていた。窓辺で月光を凝縮したり、明け方
の光を導いたり。
  翻ってこちらに置いた片割れはと言うと…棚晒し
になって乾いていたばかりだった。この片割れを活
用していたなら何かは変わったのだろうか?きっと
変わったのだろう。でももうそれも過去の話だ。仮
想でも時計を巻き戻してどうこう言える話では無い。
  さてこの返された杯はどう扱うべきか。
  出来が出来なのだからリサイクルに出して小銭を
拾うというのも一つの選択肢だ。物としての寿命を
終わらせるのももったいない話だし。
  いっそ思い切って捨ててしまうのも良いとは思う。
経緯が経緯だ。そう言う星に導かれる一対がまた生
まれたらなんとなく責任を感じてしまうだろうし。
  ……今暫くは手元において迷う事にしようか。未
練を味わっておくのも通過儀礼の一つだし、何より
礼儀であるだろうから。そう軽く哂ったつもりだっ
たが、杯は気がつくと濡れていた。 
                  【了】

○●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて戴きま
す。次号配信まで、御機嫌宜しゅう。

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以下喧伝です。

ニコニコ生放送「BL夜伽ラヂオ」
http://com.nicovideo.jp/community/co1391827
2012年1月5日(木)21時(午後9時)より開始。
毎週木曜日21時開始の30分から1時間ひと枠で毎週一人の
作家さんについてあれこれ思い出語りをさせて戴きます。
通年で50人を取り上げる予定です。
詳細は上記ニコニコミュニティまで。
出演:黒猫ゆーすけ+ぶどううり・くすこ(筆者)
3月度以降は暫しお休みを頂いておりますが、2月度
放送迄の記録動画を再録させて戴いております。
何かのお肴にして戴ければ幸いです。

お時間があれば、よろしくお願い致します。

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以下2011年6月10日配信号より継続の事務連絡にて。

配信スタンドが5箇所から4箇所となりました。
これは1箇所の運営形状変更に伴うものです。

また、website『仇花の記憶』が移転致しました。
これはCOOLサーバ運営終了に伴うものです。

以上、奥付の通りよろしくお願い致します。

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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第九巻六回 2012.3.25発行

文責:葡萄瓜XQO(ぶどううり・くすこ)
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のシステムを利用して発行させて戴いています。

ご意見ご質問等は上掲メール宛、若しくはサイト内
設置メールフォームよりよろしくお願い致します。
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公開しております。
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