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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第拾巻拾八回　　小説「大事な一片」
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2011年3月11日に発生しました東北地方太平洋沖地震
（東北大震災）にて罹災した皆様方に心からお見舞い
申し上げます。
居住地の差異の為たまたま罹災しなかった筆者に出来
ます行動は限られておりますが、幾許かが皆様の潤い
に繋がりますならば幸いです。

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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回、お楽しみ戴ければ幸いです。

〇●○

　　大事な一片
　　　　　　　　　　　　　　　　ＸＱＯ
                                
　世の中にはカタログで眺めて何とかなる買い物と何
とかならない買い物の二種類があると思う。
  カタログにも千差万別天地雲泥ある訳だから一括り
にして言える訳ではないけど、一見無個性な様に思え
る工業製品にも微妙な差異とそれによって生ずる個性
は確実にある。そう言う場合の決め手は結局自分の感
覚に頼らざるを得ない。
  自分の一部にすると言う事は自分に合う様に育てる
と言う事でもあるから、余計に神経質になるのかも知
れない。一目惚れも良いけど自分が育て易いと言う要
素も捨て難いから。
  
  「どう？」
  「悪いけど、微妙」
  「うん、まあ、もう少し試す？」
  「良い？」
  「ま、在庫はあるし」
  せめてフィッティングすれば、と言うのは一旦飲み
込んで先ずは在庫を確認させる。メガネフレームの個
性が生まれるのは人の顔と合せたその瞬間から、と言
う持論を曲げられない以上、下手な妥協は出来難い。
  既製品を合わせるだけだと割り切れるなら多分少し
は楽なのだろうけど、それが出来るなら微妙な型違い
まで在庫で取り寄せる様な酔狂はしていない。それに
加えて目の前にいる馬鹿の様にひとかたならない拘り
を見せる人もいる。その状況で手抜きが出来るかと問
われれば無理だろう。
  まあ、目の前の馬鹿…芳史はメガネフレームと言う
存在をきちんと愛してくれるからこっちも良い具合に
遣り甲斐がある。メガネフレームをモノ扱いして買っ
た以上は自分のものだと原型を留めないまでに『お手
入れ』して挙句に遣えなくする輩の事を思うと神様を
相手にしている様なものだからある意味気楽だ。
  その反面ビビってもいる。うん、そりゃビビる。メ
ガネフレーム職人相手にフィッティングするのってそ
りゃ心臓に悪い。増してやこいつは…外部証言を聞い
ても未だに信じられないが、日本でも五本の指に入る
腕前だって言うじゃないか。で、本人から自覚してか
自覚してないのか有難い申し出がかつてあった。自分
の手掛けたフレームをうちの店に置かないか、と。で、
軽い気持ちで報告書を上に上げたらお前はどんな手を
弄してルートを確保したのかと詰問され、そしてうち
の店じゃ余りに格差バランスが取れないから申し訳な
いがお断りしてくれと言う運びになった。
  オイそりゃ幾らなんでも大袈裟でしょ…と思って検
索した僕は大いに後悔した。うん。こりゃ上の意見が
正しい。惚れた腫れたの相手だからこそその持ち合わ
せた技術は、きちんと評価される場に出さないと罰が
当たる。
　「なあ、ヨシ？」
  「あん？」
  「いっそ自分用に自分で造るってのはどう？」
  「却下」
  「なんでよ」
  「職人だってプロの技を享受する権利はあるでしょ
？」
  うん、正論だ。
  「それに自分でやるとね、冷静になれないから嫌だ」
  「そんなもんかね」
  「康生用のフレームすら冷静に造れないんだからな
？」
  「何よそれ」
  「三年前良い材料が入ってさ、折角だから康生の誕
生日用に、って造り始めた訳よ」
  「そいつは初耳だわ。で、どうなったん？」
  「一度は完成したんだよ、多分」
  「何よその多分って」
  「お前の顔を思い浮かべて仮想フィッティングする
とね、駄目なの。粗がドンドン見えてきて」
  「フィッティングなら僕がやるって」
  呆れて言い返してまじまじと目の前の道楽者を観る。
ほんとこいつ馬鹿だ。それに惚れてる僕も馬鹿だけど。
  「大体この面なんてよく見てるだろ？それこそ至近
距離からでも」
  「不思議と見飽きないよね」
  「そいつはどうも」
  「だからこそ下手なものは加えたくないの。加える
なら馴染まないと気持ち悪いの」
  「…お、おう」
  駄目だ。これ以上続行したらこっちが悶死しそうだ。
何この可愛いイキモノ。天が二物を与えた故の可愛さ
だと思うが。
  「んー…もうチョイ落ち着いた色の方が良いかな」
  可愛いのは変わらないから無駄な足掻きは止しとけ
よ、莫迦。　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　【了】

〇●○

此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて戴きます。次
号配信まで、御機嫌宜しゅう。

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(10月度のみ第一及び第三火曜日配信)
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第拾巻拾八回　2013.9.25発行

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