仇花の記憶〜ごく私的なやおい歴史記録〜

増刊第三回  耽美とやおいの関係
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ごきげんよう。葡萄瓜でございます。
では、此度も御付き合いの程宜しくお願い致します。

やおいと言う語の語源には、二つの通説がございます。
一つは故・手塚治虫氏が『初級まんが講座』なる著書
の中で触れた、と言う説。
今一つは『らっぽり』と言う同人誌に於いて『やおい
特集号』が組まれ、其の中で定義されたと言う説。
手塚氏発祥説と言うのは今だに探しておりますが、明
確にこれだと言う部分に行き当たっておりません。よ
もやとは思いますが故人の威徳を借りた風説かも知れ
ません(※1)。
片やの同人誌『らっぽり』定義説に於いては、其の号
の復刻版を幸い入手できましたので確認が取れました。
今回は其の復刻版を基調にそろそろ書き進めて参りた
いと思います(※2)。

この『らっぽり やおい特集号』刊行時に参加してい
た同人は坂田靖子・花郁悠紀子・橋本多佳子・磨留美
樹子、そして波津彬子の五名。そして、『やおい』の
定義等について話されたのは同誌収録の対談(と言い
ますか鼎談)中に於いてです。この中の誰が明確に定
義を打ち出したと言う訳では無いのですね。
さて、この対談及びこの号の収録作品を見ますに、ふ
と妙な感覚を味わいます。
「これって、耽美じゃないですか?」
はい。ここで定義されていた『やおい』は今日のもの
とは微妙に違った定義だったのです。

該当定義部分を要約すれば、『(男性同士の絡みの)
卑猥な部分の抜粋=やおい』と言う事になっています。
更に事(※3)の後、前又は最中だけを描くだけと言う
展開も存在した様です。但しパロディが全く否定され
ていた訳ではなく、寧ろ妄想を湧き立たせる源泉とし
て肯定されているらしいと読み取れる箇所もあります。
確かに当時発行と思しき『UFOロボ グレンダイザー』
(※4)のやおい同人誌を古書店の店頭で見掛けた事は
在りましたしね。
閑話休題。ここできちんと書いて置きたいのは、其処
で定義されたやおいの登場人物には青年は居ても少年
は居なかった、と言う事です。少なくとも作品を見る
限りでは。
ここから一寸齟齬が出て来るんですね。
現代用語の基礎知識には91年以降『やおい』が漫画用
語として項目化されて登場しますが、そこに於ける定
義としては『少年愛(耽美/JUNE)とショタコンが合わ
さって成立』とあります。で、『ホモアニ(メ)パロ
(ディー)』の事を指す、と。
この定義が商業出版にも取り入れられたやおい(※5)
と言う事ならば頷けないでもありません。が、全ての
やおい同人に適用されるかと言えば少し強引では無い
かと思うのですね。
時代の流れから見ますと「JUNE」によって啓発集成さ
れた耽美と呼ばれる一群からやおいが生じ、其処から
更にBoysLove(※6)と呼ばれるオリジナルを基とした
一群が生まれ、耽美からはJUNE(※7)と呼ばれる一
群が更に分かれた、と言う認識になりましょうか。
この辺の時間推移と関係性がややこしいのでやおいの
歴史を纏める人も少ないのではと思います。私にした
所で正直な所、この概略認識で良いのか些か自信が在
りません。出来るだけ記憶と資料に基づき正確を期し
ては居ますけれども。

では、此度はこれにて。
増刊第四回のテーマは全く何も考えておりません。
31日発行の本編第二回にて又お目にかかりとうござい
ます。

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※1
『やま無しオチ無し意味無しはいけません』云々と言
う引用例を見たりもする。そしてコメントは押並べて
『現在の意味とは違う』云々。
そして明確な著書名紹介の記事は今の所一例も見てい
ない。本文に於いても風説を探す中で漸く著書名らし
いものを見つけたのでそれを紹介しているに過ぎない。

※2
「小説JUNE 通算129号(01年3月号/01.3.1発行)」
(マガジンマガジン刊)の巻末付録ページに於いてほ
ぼ完全に復刻されている。オリジナルの刊行日は79.
12.20。波津彬子が編集責任者と言う事になっている。
なお、「JUNE/93年11月号」に於いて波津彬子が当時を
懐古したエッセイを掲載しているとも聞くがそちらに
関しては現在資料捜索中。

※3
余計な注かも知れないが、決して性交渉一辺倒を指す
のではない。接吻・愛撫等を含めた愛の行為の一群を
指して『事』としてみた。

※4
75年から77年放映。永井豪原作のSFアニメーション。
「マジンガーZ」「グレートマジンガー」と連続した時
間軸の作品世界を持つ。其の為、「マジンガーZ」の主
役であった兜甲児がレギュラーとして登場と言う事に
なっていた。のみならず主人公に矢鱈と甘え(やおいの
設定ではなく、兄分を慕う弟分の様に…にしては過剰な
甘えだったが)ていた。

※5
やおい同人が商業出版に取り込まれたのは87年にキャプ
テン翼の同人誌アンソロジーが出版されて以降だと筆者
は認識している。当時JUNEにも投稿コーナーはあったが
それはあくまでも読者友好及びプロ育成の礎と言うべき
ものであって、数多の同人作品のベスト版的存在を作ろ
うと言う意図ではなかったからだ。

※6
『(一部女性同人誌発行者、及び其の出身の創作者が用
いる)見目麗しい少年達を主人公にした同性愛関係を要
素に含む物語展開方法』と言う定義は暗黙の了解で存在
するものの、語源については証言が殆ど見当たらない。
強いて挙げるならば『Comicイマージュ』(白夜書房/92
年創刊?オリジナルシリーズアンソロジー)の表紙にあ
った『Boy'sLove』が該当するだろうか?
肉体関係描写に関しては淡白なものが多く、傾向的には
コメディを含むプラトニックラブと見て良いのでは。

※7
『JUNE』本誌、と言うよりも増刊である『小説JUNE』を
発祥と考えるべき区分だろう。耽美の一派であるが、小
説にJUNEと冠される事はあってもコミックにJUNEと冠さ
れた例を見たと言うのはとんと記憶に無い。
精神性を重んずるのは耽美の性質其の侭であるが、肉体
的表現に於いて耽美よりもやや直接的、いや、寧ろ肉体
表現を抑えるのに精神性を用いている面が強いだろう。

*ショタコンの注に関しては後日掲載。
増刊第一回傍注4を参照して戴けると有り難い。

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仇花の記憶〜ごく私的なやおい歴史記録〜
増刊第三回  2003.5.26発行

文責:葡萄瓜XQO
website:『仇花の記憶』
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