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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第三巻拾弐回  小説「暫しお湿り」
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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回。お楽しみ戴ければ幸いです。

○●○

   暫しお湿り
              XQO

 濡れ鼠になったぼくを、彼は只呆然と眺めて
いた。ぼくもただ見つめ返す。ぼくが知る限り
の彼の趣味の範疇には無い服を纏った男を。

 心が離れてしまった上で関係している相手と
言うのは今ぼくが纏っている服の様なものなの
かも知れない。不要な湿り気の為に必要以上に
重く、そしてただ只管に鬱陶しい。
 心がただ一筋でも繋がっていたならば多少は
互いを乾かす事が出来、程好い湿度を保つ事が
出来るだろう。でも、互いの心を硝子戸で閉ざ
しながら様子を窺い合っている関係ならば乾か
ないのも当たり前か。冷たい湿度ならば尚更の
事。

 そろそろ鬱陶しいからこっちから動こうかと
思った矢先、微かに相手が動いた。
 「なに?」
 「一寸待てる?」
 「待てなくは無いけど」
 「じゃ、待機で」
 ああ、と一人合点。このままぼくが部屋に入
れば拙い事もあるかもね。賢明な判断じゃない
の?今更の配慮だけど。
 返事をした瞬時に10分待つつもりでのんびり
構える。幸い心は冷えていない。嫌な熱は持っ
ているけど。
 でも、彼が戻ってきたのは30秒も経たずにだ
った。
 呆気にとられる僕の横から玄関に手を延ばし
錠をかけ、タオルで頭を包んで乱暴に水気を拭
き取ってゆく。
 「な、ちょ、ま」
 「舌噛むよ」
 短く宣告すると今度は勝手知ったるぼくの服
の止め具と言う止め具を片手で外しつつもう片
方の手でタオルを滑らせて行く。
 タオル越しに感じるのは彼の熱。ここ暫くの
生暖かさではなく、かつて感じていた様な熱さ。
その熱さに誘引されたのかぼくの体も熱くなる。
局部だけ熱くなるのではなく、全身が静かに熱
を帯びてゆく。
 「もう、濡れてないね?」
 「うん、多分」
 「じゃ、これ飲んで」
 台詞と共に肉厚の椀を押し付けられる。中の
液体の熱なのか、伝導熱でほのかに熱い。
 「甘味が強いから大丈夫だろ」
 顔を覗き込まれて妙に照れ臭いので視線を遮
る様に飲む事に専念する。生姜葛湯とは些か季
節外れだけど、状況から言えば理想的な飲み物
かも知れない。そう言いつつも生姜が苦手なぼ
くでは在るけれども。
 でも、不思議としっかり飲めた。体に吸い込
まれて行く様に液体が入ってくるのだから。暫
く離れている内に彼は魔法でも身に付けたのだ
ろうか。まさかね。
 
 「もう、来ないと思ってた」
 「ぼくもそのつもりだったけど、雨宿り先の
心当たりが無くて」
 互いの距離を探る様に背中合わせで言葉を交
わす。小声と微かな震動、そして心音で対座し
てるよりも却って安心できる。
 「形が無くても、あんし」
 「それ無理。何かで形は欲しくなるよ」
 「捨ててしまえるものでも?」
 「嫌な事言うなぁ」
 「実行してみちゃったからね」
 「で、感想は?」
 「却って欲しくなった。この始末どうしてく
れる?」
 「知るもんか」
 遣り取りの合間にじわりと指を握られる。そ
の動きは静かに熾き火を燃やしてくる。
 「これでやり直すと言うのは、流石に虫が良
すぎるよね」
 「どっちが?」
 「どっちも」
 「確かにね。でも未練からじゃないから良い
んじゃない?」
 「良くないでしょ、流石に」
 真正面から向き直られる。
 「体だけにしたくないから、と言わなきゃ判
らない?」
 「……惚れ直させなさんな」
 「お互い様」

 合図は雨上がり。
 其れ迄に心が決まれば二人で棲家を探しに行
く。
 其れ迄に迷いがあれば?
 二人で迷って調整してみるのも良いかも知れ
ない。今度は恋愛と欲に対して対等な立場で。                               (了)

○●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて
戴きます。
では次号配信まで、御機嫌宜しゅう。
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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第三巻拾弐回 2006.6.25発行

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