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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第四巻四回  小説「そしてふたりで」
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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回。お楽しみ戴ければ幸いです。

○●○

    そしてふたりで
                 XQO

 制服に、静かにブラシを掛ける。嬉しい時に
も寂しい時にもいつも来ていた制服だ。体格に
大きな変動がなかった所為か、この制服は中二
の冬からつい昨日まで着ていた。途中から風紀
条項が変わり、服装がある程度選べる様になっ
たけれども、学校での僕は相変わらず学ラン姿
のままだった。
 自分の趣味?それは一応ある。それにも増し
て大きい理由は、幼馴染兼恋人の意向だ。  
学ランが好きなら自分の学ラン姿を鏡で見て陶
酔してれば良いものを、あいつは僕をとうとう
昨日まで学ラン生活に付き合わせやがった。都
合六年間だ。六年間ボタンのデザインも変わら
ない、と言うのは学ラン好きとは言え一寸きつ
いものがある。校外デートの時に学ラン姿を強
要されなかったのが奇跡な程だ。
  まあ、あいつも流石に朴念仁ではない。硬派
でもないし。ただ僕の学ラン姿に執着している
だけだ。
  僕以外に色目を遣わなかったと言う点は、褒
めてやっても良いか。だからと言ってそれで全
てが帳消しになる訳でもないけど。

  「こんばんはー」
  回想モードに入りかけていた矢先に聞こえた
声にずっこける。うん。訪問には非常識な時間
帯ではない。でも、昨日の今日だ。一寸は間を
置いて余韻に浸る事が出来んのかと心の中で毒
づきながら訪問者を招き入れる。
  「いらっしゃ…降ってる?」
  「狂い咲きならぬ狂い雪かな。やけに冷える
と」
  「説明あと!さっさと入る!」
  雪の中を着てくれた客に風邪をひかせてはい
けないとさっさと玄関続きの台所に引っ張り上
げ、タオルを三枚投げつけてとりあえず柚子茶
を淹れる。
  「レインポンチョ程被って来いっての。った
く」
  「顔見たくなったら矢も楯もたまらんくなっ
てさ」
  「どうせ春からもつき合わせる顔だろうよ」
  「そう言うんじゃなくてさ」
  二番手のココアを作りながらそっと舌を出し
てみる。うん、知ってる。知ってるからこそ軽
く悪態をついて困らせたくなる。会いたい気持
ちが膨らんでるのはお互い様だものね。ただ僕
はキミのそう言う困った顔を見るのが好きだか
らあえて留まっているんだけど。
  「顔見たくなったら一寸思い付いた事もあっ
たんで、相談しとくかな、と」
  「急ぎの用事?」
  「急ぎと言えば急ぎ」
  「なら、電話でも良いんじゃないの?」
  「電話はもどかしいんだって」
  判っててはぐらかすこの快感。こう言うので
相手を独り占めしてる実感を味わうのは悪趣味
だとは自覚してます、ハイ。
  「んで、何よ?」
  「明日、暇だったよね?」
  「予定通りなら」
  「デート、せん?」
  内心期待が膨らんでいただけに思い切りずっ
こける。この期に及んでデートだと?それをわ
ざわざ言いに押しかけてきたと?中坊じゃある
まいしナニ走ってるんだよと天を仰ぎかけてし
まった。
  でも、その変な気分も次の一言で吹っ飛ぶ。
  「学ラン着てさ、通学路から行った先々まで、
色々回ってみん?」
  この一言に、軽く息を呑んで姿勢を正す。
  「学ランで?」
  「そう、学ランで」
  そういえば、と思い当たる。学ランを着る様
になってから、僕達が一緒に通学した事が無い、
と言う事実に。それだけではない、学ランを着
ている間、僕達は半ば無意識に行動を共にする
事を避けていた。
  それは、とりあえず世間と折り合う為には正
しい行動選択だったのかも知れない。でも、言
われてみて内情はどうだったかと回想すると、
割り切れないものは確かにある。
  この関係に対する葛藤への回答の一つとして、
こいつは学ランを選んだのか。執着するのも判
らないではないな。なら、きちんと僕も応えて
次に進む為にけりをつけるか。
  「いいね。ついでに鞄も通学鞄にする?」
  堅くなっていた表情が柔らかく綻ぶ。花も綻
ぶ頃なのだから、それ程の表情が今は丁度良い。
  「帽子、まだあるよね」
  「みてみるわ」
  学ランをとりあえず押し付ける。ああもう、
だらしない顔すんじゃないの、ったく。
                      (了)


○●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせ
て戴きます。
では次号配信まで、御機嫌宜しゅう。
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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第四巻四回 2007.2.25発行

文責:葡萄瓜XQO
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