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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第六巻弐回  小説「T-4-2」
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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回。お楽しみ戴ければ幸いです。

○●○

   T-4-2
               XQO

 予定通りに訪ねて行くと、哲は柚子茶を増殖
させている真っ最中だった。火を使っていた訳
じゃ無い。一瓶の柚子茶を四分割した上でそれ
ぞれの瓶の空間を蜂蜜で埋めてゆく。そして一
混ぜしたらそれで増殖作業は完了。後は一晩寝
かせるだけ。それで大丈夫なのか?不思議な事
に大丈夫なのだ。哲曰く柚子の持つ薫りが元々
強い所為なのだろう、との事。
 「そんなに増やして大丈夫なん?」
 「これでも若しかしたら足りなくなる可能性
はあるかもね」
 「俺そんなに飲まな」
 「ホットはな。アイスは飲むだろ?」
 さらっと言われて言葉に詰まる。柚子茶と言
う単語の響きに縛られてホットで飲んでばかり
いた時は確かに敬遠気味だったけど、アイスで
飲んでも美味いと判った時点で俺は実際ひっき
りなしに飲んでいる。風呂の後や運動後の水分
補給に良いんだよな。蜂蜜レモンに近い感覚か
も。
 「まあ、不自然と言えば不自然ではあるよな。
一人暮らしでこんなに柚子茶を備蓄してちゃ」
 ……笑いながらの一言だから少しは救われる
けど、マジ今は勘弁して。うん。俺にも責任の
ある現状なんだけど、責任を取る為には俺も我
慢してる部分はある訳で…って、その我慢も合
意でしょ?
 「座って待っててよ。とりあえず」
 頷いて俺は炬燵に入り、鞄からノートと教科
書を出して今日の課題の準備をする。四歳差で
講師と生徒に立場が分かれている事に少し理不
尽を感じつつ。

 俺が哲に勉強を教えて貰う様になったのは昨
日今日の事じゃ無い。考えてみれば足掛け六年、
俺が中学に入学した時点で既にこう言う立ち位
置は確定していた。で、俺ン家は物理的に落ち
着いて勉強できる環境ではなく、流れるままに
哲の家で…という次第になった。
 教えて貰うのが勉強だけじゃなくなったのは
高校入学直前辺り、かな。俺から強請って押し
切ったというのが最初だったってのがね。
 今思い返せば、あの時快感に陶酔できたのは
押し切って夢中になってる間だけだった。体が
冷えて落ち着くにつれ溢れてきたのは困惑と失
望。押し切った事を誇れる傲慢さが欠片でもそ
の瞬間の俺にあったのなら、多分そう言う気持
ちにはならなかったのだろう。
 快楽は否定しない。でも、快楽を導き出した
過程は否定したかった。合意ばかりではなかっ
たから。
 以降そう言う関係を保持しつつあるとは言う
ものの、俺の心の中には常に不安がある。 
 哲は何時でも俺を捨てる事が出来るのだ。俺
がこの関係で優位に立てる条件なんて未だに欠
片も発生していない。哲が俺を受け入れてくれ
る事で関係が成立しているのだから。
 だから俺はその時以来哲の出す課題をこなし
た上で更に半歩前に進む様にした。二歩前に進
む事が出来ると格好良いんだけど、身分相応と
言う事でとりあえず半歩。そうでないと哲が恥
ずかしいだろうから。押し切った立場の責任と
して。

 「柚子の方はまだ馴染ませないといけないか
ら今日はお預け。こっち試してみて」
 「生姜?」
 「とりあえず試しはホットで」
 一口飲んでみて変化に気付く。今迄のものよ
り辛い。いや、生姜の味をきちんと前に出して
いる、と言うべきか。
 「美味い?」
 「良い味だ、と思う」
 「そっか」
 この遣り取りは何かの試験なんだろうか?
 「やっぱ大人になってるよね」
 「俺?」
 「そう」
 「かな?」
 「それがちょっと悔しくも惜しくもある。あ
ー、チビまアはもう居ないんだな、って」
 「悪かったね」
 「ゴメンゴメン。でも、だからこその安心も
あるから」
 不意に背中に回りこまれて、座椅子よろしく
背中に凭れ掛かられる。
 「こうして二人でこれからも居れる、って安
心できた」
 「……良いの?」
 「今更」
 「だって、俺」
 「良い男に育ったから許す」
 素っ気無く言うと照れ隠しの様に生姜茶を一
気飲み。でもさ、耳まで真っ赤にしてたら照れ
隠しの意味、ないよね。  
                  (了)


○●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて
戴きます。
では次号配信まで、御機嫌宜しゅう。
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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第六巻弐回 2009.1.25発行

文責:葡萄瓜XQO
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