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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
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第六巻四回  小説「最初の一葉」
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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
小説配信回。お楽しみ戴ければ幸いです。

○●○

   最初の一葉
               XQO

 全く最近は便利になったものだ、とマウスを
滑らせながら今更の様に感心する。私の様な老
頭児でもスキャナの力を借りてデータ化さえす
れば写真を洗浄し精彩を蘇らせる事が簡単に出
来る様になっているのだから隔世の感頻りだ。
お陰で納戸と書斎の往復頻度が増えてどうにも
困る。落ち着いて書き物も読み物も出来たもの
では無い。
 尤も、自分の写真を洗うと言うのならばここ
まで夢中にはならぬ。そこまで自分に酔える程
の器ではないし。
 むしろ自分と一緒に写っている相手の想い出
を補完したいが為にせっせと洗い出しをしてい
る様なものだ。余りに精彩が過ぎると想い出の
味わいがなくなるという謗りもあろうが、私は
そうは思わない。セピア色云々と言う美麗辞句
を纏わせて自分にとって美しい様に想い出を作
り変える事こそ無粋であり失礼であろう。そう
言う愚を犯すよりは精彩とともに蘇る自分を含
めての青臭さを今一度噛み締めた方が余程背筋
が伸びる。
 とは言うものの、実際の所想い出に耽る為に
納戸と書斎を往復している訳では無い。本当に
観て置きたかった一葉がどうしても見当たらぬ
のだ。存在の記憶はあるのにどうしても見当た
らぬ。四方や何処かに紛れたかと似た様な構図
のものを洗い出しながら探すのであるが果々し
く無い。困ったものだ。
 さりとて今の連れ合いに尋ねるのは正直気が
退ける。連れ合いにとっても知人であるとは言
え、初恋の相手を含めた一葉を探すのに手を煩
わせるのは流石に失礼と言うものだろう。初恋
を今更如何こうする気持ちが無いにしても。
 ……十二支二廻りを過ぎてみて改めて判る感
情もある。二心は無いと信じて貰っているから
こそ自分の中で納めておきたいのだ。彼が過去
に対して無闇に怒る人ではなく、むしろ哀しみ
を共有してしまおうとする人であるからこそ。
四十は不惑と古人の言葉を借りて賢しらに言う
輩がいるが実際は四十を越えてからの方が遥か
に惑う事が多い。感情のままに直走る事にも言
い訳をする事にも躊躇いを覚えてしまうから。

 一息入れて茶を飲む。連れ合いの手を煩わせ
ぬ様蓋茶杯を用いて淹れた茉莉花茶は、どうも
湯と抽出時間の加減を誤ったらしく変に濃く出
てしまっている。が、その軽い渋味が妙に心を
解すのだからこれは奇禍と言うべきだろう。
 「おやおや、蓋茶杯ですか」
 「ああ。用意もあったんでね」
 連れ合いからの不意の声掛かりに軽く驚く。
後ろめたい事をしている訳ではないが、さりと
て知られるのも余り好ましくは無かろう。
 「もしかしてこれを探していた、とか?」
 彼が机上を滑らせて寄越したのは学生服を纏
い軽く睨みあう少年二人、そしてその間で苦笑
する草臥れた背広を着た四十路の男。
 その一葉を凝視してから噎せた私の背を擦り
つつ連れ合いが苦笑交じりに言葉を漏らす。
 「アルバムを真っ先に確認しないってのは変
わらないね、辰彦君は」
 「…ぇ…っほっ…」
 「ああ、無理して喋らなくても。まあ気配の
違い程度は判るよ。ここまで一緒だったし」
 愛しむ様に一葉を撫でつつ言葉は続く。
 「こうだった僕達が昭歩さんの歳まで連れ添
う様になるなんてまさかとは思ってたけどね。
でもこれは現実。選んだ気持ちを嘘にするつも
りは今も無いよ」
 「かk」
 「うん。それも判ってる。でも、ずるいよ」
 「…そうか」
 「昭歩さんの事も込みで僕達の関係があるで
しょう?だったら、そこから目を背けるのはア
ンフェアだ」
 言葉遣いを昔に戻しながら、静かに空を見遣
る。
 「思い出の糸口が無いのは、矢張り寂しいね」
 「一人合点、しちゃったかな」
 「いや、優しさに不覚にも惚れ直した。だか
ら、洗って複製をお願いしますね、辰さん」
 鼠花火を放り込んでからいきなり今に戻る事
は無いだろうが。と小言の二つ三つでも投げよ
うかと思っている間についと立たれているのだ
から世話は無い。足音の後暫しの間があって葱
切る音が響いている所を見ると膳仕度の合間に
からかいに来たらしい。
 実に、妙な縁だ。
 自分をもてあましていた餓鬼二人を見かねて
引き取り等分に愛した人の願った未来が今なら
ば、それは成就した事になる。
 写真を洗い終えたら、牡丹餅を過ぎた影に供
えておくとしよう。謝辞と共に。 
                  【了】

○●○

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて
戴きます。

ここで喧伝事項を一つ。
来る3月21日の土曜日、大阪シキボウホール7F
大ホールに於いて開催される『CUTE☆6』
にて発行されるイベントアンソロジーに今回も
寄稿させて戴く運びとなりました。
御来場及び御高覧下されば幸いです。

では次号配信まで、御機嫌宜しゅう。
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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第六巻四回 2009.2.25発行

文責:葡萄瓜XQO
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